皇太子と秋篠宮の兄弟が「継ぐ者」と「支える者」という役割分担を果たせているかと言えば、必ずしもそうは見えない。原因はどこにあるのか。大原康男・國學院大學大学院客員教授が解説する。
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昭和天皇が崩御されて24年余り、マスメディアでは「天皇の戦争責任」を問う論調がめっきり減った。その代わりというわけではなかろうが、ここ10年来続いているのが、皇太子妃雅子殿下に対するバッシング報道である。
「天皇の戦争責任」というテーマでは、時に行き過ぎた論も展開されたが、戦争で肉親を亡くした方もまだ多く残っていた時代で、人情としてそういった論が出てくるのは理解できないわけではない。しかし、妃殿下に対する個人攻撃はあまりに陰湿であり、看過できるものではない。
『新潮45』3月号での、宗教学者の山折哲雄氏による「皇太子殿下、ご退位なさいませ」という論考が物議を醸した。恣意的な論理展開で反論すべき点も散見できるが、ここでは1点だけ指摘しておく。
山折氏は皇太子殿下に「退位」を奨めているが、皇位継承権第一位の皇子を「皇太子」と呼称するだけで、そもそも「即位」も何もしておられないのだから、それを「退位」せよというのは意味不明である。突きつめれば、「皇籍を離脱せよ」と言っているに等しく、そればかりか「退位」後に京都に住むことまで提言しており、皇太子殿下に対してあまりにも非礼で不遜と言うほかない。
この論考で主張されているのは、皇太子殿下と秋篠宮殿下のご兄弟を比較して、家族にかかりきりの皇太子殿下より秋篠宮殿下こそ次の天皇に相応しいとする考え方である。週刊誌などでも、皇太子殿下と秋篠宮殿下のご公務の量を比較し、皇太子はその任を果たしておられないと批判する記事がある。
確かに雅子妃殿下のご病気のために、皇太子殿下はご家族の問題に多く時間を割かなければならない状況が続いている。本来は皇太子殿下が皇族として最も大きな役割を担い、秋篠宮殿下がそれを補佐するというのがあるべき姿であるが、今の状況はそれが逆転してしまっているかのように見える。しかし、その本当の原因がどこにあるのかを見定めなければ、ことの実相は分からない。
※SAPIO2013年6月号