アンジェリーナ・ジョリー(37才)が下した“決断”が注目を集めている。遺伝子検査によって乳がんの発生リスクが87%と診断されたことから、両乳房の切除手術を行ったのだ。
アンジーや同様の決断をした体験者からは、遺伝子検査や予防的切除で「取る」ことのメリットを強調する声が多い。
だが、欧米でも<この手術を当然と見なす考え方はよくありません>(仏ルモンド紙)といった、慎重な報道も少なくない。なぜなのだろうか。
まず、遺伝子検査の課題について考えてみよう。
ほんの7ccの血液で遺伝性乳がんにかかるリスクがわかるなら、試しに遺伝子検査を受けてみたい―――軽い気持ちで記者(35才、親族にがん患者なし)が言うと、聖路加国際病院の乳腺外科部長でブレストセンター長の山内英子さんは「遺伝子検査は安易に受けるものではありません」ときっぱり。検査を受けるには、カウンセリングなどを受け、充分に理解することが必要だという。
聖路加国際病院において遺伝性乳がんに対する遺伝カウンセリングを行う対象は、近い血縁内に、「乳がんや卵巣がんを発症した人がいる」、「45才以下で乳がんを発症した人がいる」…など、遺伝性乳がんの可能性が一般より高い人を想定している。
「カウンセリングでは、遺伝子検査のメリットやデメリット、そして陽性反応が出た場合にどうするかなど、遺伝子カウンセラーたちと1時間半ほどかけてお話しし、相談者の疑問点や不安点を解消するよう努めます。そのうえで、検査を受けるかどうかを選択してもらうのです」(山内さん)
そもそも、絶対に誤解をしてはいけない点があると山内さんは強調する。
「まず、遺伝性乳がんは、乳がん全体の5~10%にすぎず、多くのがんは遺伝とは関係ない環境要因などで引き起こされます。遺伝子検査で陰性だったからといって、一生乳がんにかからないというわけではないのです。同時に、検査で陽性だから必ず乳がんになるわけでもありません。検査でわかるのはあくまでリスクなんです」
もちろん遺伝子検査のメリットはある。乳がんのリスクを知り、まめな定期検診や投薬などの予防措置がとれること。では、デメリットは?
「まず、健康保険の適用外なので、費用が高額です。それから、遺伝子検査の結果は、ご家族みんなに関与するので、コンセンサスを得てもらわなければならないということです」(山内さん)
例えば、自分が陽性の場合、親や子供にも同じ遺伝子変異がある確率は50%となる。各病院・施設と提携し、日本で2000年からこの遺伝子検査を実施している企業「ファルコバイオシステムズ」バイオ事業推進部学術顧問兼部長で医師の権藤延久さんが説明する。
「遺伝子は父と母それぞれから受け継いだもの2つが1対になるので、変異のある遺伝子が次世代に引き継がれる確率は50%になるのです」
もしあなたが遺伝子検査を受けて、年頃の娘から「ママ、どうしてそんな検査を受けたの。ママが陽性だったら、私はどうなるの」と不安を訴えられたらどうするだろう。
「遺伝子情報は、自分のみならず家族にも関与します。そうした点をきちんと理解していただかないと、家族間のトラブルになりかねません」と山内さんは指摘する。
その他にも、乳がんや卵巣がんになるリスクが高いとわかれば、保険に加入できなくなったり、雇用や結婚にも問題が生じる可能性も否定できないので、充分に理解する必要があるのだ。
※女性セブン2013年6月6日号