【著者に訊け】薬丸岳氏・著/『友罪』/集英社/1785円
少年法の限界を世に問い、ミステリーファンから圧倒的支持を受けたデビュー作『天使のナイフ』を始め、善悪や罪と罰といった簡単には答えの出ないテーマに真っ向から取り組んできた薬丸岳氏の新作『友罪』が、刊行早々話題を集めている。これまでも事件や犯罪をめぐるシーンを被害者側や加害者側など、様々な角度から描いてきた薬丸作品ではあるが、今回のテーマはまさにヒトゴトではない。
〈もし同僚が、世間を震撼させた“あの事件”の少年犯だったと知ってしまったら?〉〈真実を知っても、友達でいられる―─?〉
薬丸氏はこう語る。
「この『もし』はそれこそ僕が作家になる前からずっと書きたかったテーマでした。友人や同僚や恋人など、僕らは普段いろんな人間関係を結んでいますが、実際は相手が何を考えているのかさえ、よく知らなかったりする。
その友人や恋人が自分と知り合う前に何かしていても、特に少年事件の場合は知りようがないし、逆に僕が痴漢か何かで逮捕されたら、昨日まで仲良く飲んでいた友達が『いつかやると思った』と言うかもしれない(笑い)。
それくらい人間の関係や評価というのはあやふやなもので、相手の過去を知った時、人はどこまで身内のままでいられるのかと」
主人公はジャーナリストを夢見ながら、大学の先輩に紹介された週刊誌のアルバイトをわけあって辞め、川口のステンレス加工会社で働き始めた〈益田純一〉。同じ日に入社した〈鈴木〉とは同じ27歳で寮でも隣部屋だ。無口でどこか得体の知れない鈴木は、なぜか益田には心を開き、次第に寮の仲間とも打ち解けていく。
きっかけは何気ない一言だった。理由は知らないが隣室で毎晩うなされている彼に、中学時代にイジメを苦に自殺した友人〈桜井学〉の面影を重ねた益田は、ついそのことを話したのだ。すると鈴木は〈もし、ぼくが自殺をしたら……痛みを感じる?〉と思わぬことを言った。学を救えなかった疚しさから〈悲しいにきまってるだろう〉と答えて以来、鈴木は益田を友達と呼んだ。
本書では、そんな鈴木に好意を寄せる事務員〈藤沢美代子〉や、医療少年院に勤務する精神科医〈白石弥生〉、そして益田の3人の視点から、世に〈黒蛇神事件〉と呼ばれる少年事件の“その後”を描く。奈良県内の住宅地で2人の男児を殺害し、眼球をくり抜いて遺棄した14歳の少年〈青柳健太郎〉は、実は彼を守る矯正局の前から姿を消していた。
そんな中、女子アナとして活躍する大学時代の恋人〈清美〉から黒蛇神事件に関して意見を求められ、事件を調べ直した益田は、鈴木こそあの少年ではないかと疑い始めるのである。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2013年6月7日号