中国では今年3月、習近平国家主席が最高指導者に就任して以来、中国共産党や政府の高級幹部の人事調整が続いているが、引退した胡錦濤・前主席や温家宝・前首相の秘書がそれぞれ次官級幹部に栄転していたことが分かった。
通常、胡、温氏ら最高幹部経験者は引退後も北京に事務所を構え、主な秘書もそのままにして、現役の最高指導部に圧力をかけて、党内での影響力を誇示するのが通例。このため、「胡・温両氏は習近平に追い出された」とか、「胡・温両氏は潔く引退の道を選んだ」などの観測が飛び交っている。
胡氏の元秘書は陳世炬氏で、胡錦濤弁公室(事務所)の筆頭秘書を務め、「胡氏の懐刀」ともいわれた切れ者だ。その陳氏の新たなポストは党中央弁公庁副主任で、党中央委員会の事務手続きのほか、重要会議の裏方、党総書記である習主席のスピーチライターなどの仕事を一手に引き受ける重要ポストだ。
陳氏の上司に当たる党中央弁公庁主任は栗戦書氏で、習主席と極めて密接な関係で、習近平グループの大番頭役に相当する重職。それだけに、常に習主席と行動をともにしていることから、党中央委員会の通常業務は副主任の陳氏が差配することになる。
胡氏と習主席は昨年秋の党大会の指導部人事をめぐって、激しい権力闘争を展開したことで知られるが、「その胡氏の筆頭秘書を習近平政権の重職に登用したことは、習氏が陳氏の能力の高さを買っているからにほかならない」と北京の外交筋は指摘する。
一方、温・前首相の元秘書は頂兆倫氏で、2011年6月から今年3月まで2年弱、務めていた。その頂氏は4月17日、文化省次官の肩書きで、同省の会議に出席したことが新華社電によって報じられた。さらに、2011年6月まで8年間、温首相の筆頭秘書だった丘小雄・元同主任は国税総局副総局長に就任したことが新華社電で確認されている。いずれも次官級で、今後は秘書から政府の高級幹部の道を歩むことになる。
中国では中国共産党政治局常務委員や政治局員クラスの党幹部、閣僚クラスの幹部は引退後も住宅や専用車、秘書は現役時代同様、そのまま維持されるのが慣例。その費用も政府が負担する。
『習近平の正体』小学館刊)の著書もあるジャーナリストの相馬勝氏はこう指摘する。
「胡・温氏とも自ら望めば、そのまま個人事務所は維持され、習主席ににらみを効かせることもできたはず。しかし、胡氏は噂された中央軍事委主席に留任せず、いさぎよく権力の座を降りて、『裸退』(すべての役職を下りて、引退する)の道を選んだ。もとより、温首相も権力に執着するタイプでない。いまでも、権力の座への未練を引きずっている江沢民元主席に比べて庶民受けがよいのは当然で、江氏とは違った形で影響力を保持しようとしているのではないか」