あの熱血マンガの危機に立ち上がったのは、主人公に思い入れのある“熱血漢”だった。
5月8日の参議院予算委員会で、みんなの党の山田太郎議員が児童ポルノ法について質問した。
「行き過ぎた自主規制が行なわれて、日本の漫画やアニメが面白くなくなる、また廃れてしまうのではないかと危惧しております」
漫画好きを公言する麻生太郎・財務相にこう質問すると、麻生大臣は「財務省に持ち込まれてもちょっと所管外という感じがいたします」と、かわしたが、山田氏は二の矢を準備していた。予算委員長に「山田太郎君」と指名されると、次のように続けたのである。
「実は、水島新司先生の野球漫画『ドカベン』、つまり、私と同じ名前の山田太郎という人が主人公の漫画なんですけれども、その中でも8歳以下のサチ子という妹が入浴シーンで出てきておりまして、こんな本なんかも発禁本になる可能性もあるんです」
なんと、山田太郎議員が、山田太郎を引き合いに出して質問したのだ。これには、議場でも笑いが漏れた。山田氏が質問の理由を語る。
「自民党の改正案には、これまでなかったアニメや漫画が規制の対象に盛り込まれている。児童ポルノの定義として法律では、〈衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの〉とされています。
これが何を意味するかというと、たとえばアニメや漫画の登場人物の肩から肌が露出している場合、それを〈性欲を興奮させ又は刺激するもの〉と見なされれば犯罪になってしまう。そうすると自主規制という流れが起きます。またそれを所持していただけで罪に問われることも問題です」
日本で最初に児童ポルノ法が施行された1999年には、大手書店チェーンから青年向け漫画だけでなく一部にヌードや性描写を含んだ一般向け漫画まで撤去された。
「『ドラえもん』のしずかちゃんの入浴シーンや、『となりのトトロ』で家族が仲良くお風呂に入っているシーンも規制対象となってしまう。それはおかしいと思い、質問に立ちました。私は『ドカベン』世代で、少年野球では主人公と同じキャッチャー。同姓同名で思い入れも強かったので例に出したんです」(山田氏)
子供たちが性的搾取の対象になることは絶対に許されない。だが、それを口実にして表現の自由を危うくする児童ポルノ法改正は、憲法に抵触しかねない重大問題だ。「山田太郎による山田太郎の妹の問題提起」には極めて重大な意味が込められている。
※週刊ポスト2013年6月7日号