ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長が、4月23日付の朝日新聞に掲載されたインタビュー記事において明らかにした、全世界で働く正社員すべてと役員の賃金体系を統一する「世界同一賃金」の衝撃がなかなか醒めない。「世界同一賃金」をきっかけに、「仕事と給与」の問題について大前研一氏が解説する。
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安倍晋三政権は、経済や金融に加え、雇用関係でも次々と施策を発表している。首相が議長を務める産業競争力会議が“残業代ゼロ制度”と呼ばれる「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)制度」の導入を提唱したり、「裁量労働制」の対象職種を広げたりすることを検討している。
「WE制度」とは、一定収入以上のホワイトカラーを労働基準法の労働時間規制の対象から除外<エグゼンプション>し、管理職同様に何時間働いても会社は残業代を支払わなくてよいようにする制度のこと。
「裁量労働制」とは、仕事の進め方や時間配分を労働者の裁量にゆだね、実際の勤務時間と関係なく、あらかじめ労使協定で定めた「みなし労働時間」に対して給与を支払う制度のことである。
だが、この問題は個々の制度の是非を議論するのではなく、今後の日本人の働き方はどうあるべきかという、より大きな枠組みで考えるべきである。
実際、今や「いつでも・どこでも・誰でも」つながるユビキタスの進展により、「テレワーク」(会社から離れた場所〈tele〉で働く〈work〉という意味の造語)や「ノマド(遊牧民)ワーキング」と呼ばれる新しいワークスタイルが日本でも広がりつつある。仕事をする時間や場所が制約されないとなれば、おのずと裁量労働制を導入せざるを得なくなる。
日本ではこうした就労形態がなかなか根付いてこなかった。ようやく今、モバイルPCやタブレット、スマートフォンなどを使ってオフィスだけでなく様々な場所で仕事をする働き方が広がっているわけだが、そういう雇用形態や就労形態にするかどうかは、それこそ企業と個人の裁量に任せればよいことであり、国が決める話ではないと思う。
そもそも裁量労働制がこれまで日本企業で根付かなかった背景には、実はもっと根の深い問題がある。それは、仕事を命じる経営者や上司が「仕事を定義できていない」ということだ。
部下や外部の人間に業務を依頼(アウトソーシング)する場合、本来はクオリティや納期など仕事の内容をSLA(サービス・レベル・アグリーメント。どのような業務品質を提供するかの取り決め)という形態ではっきり具体的に定義しなければならない。
ところが、日本企業のホワイトカラー管理職たちは、それが曖昧なまま集団で仕事をしているケースが多い。だから部下を目が届く範囲の「時間と場所で縛る」20世紀型のマネジメントしかできていないのだ。
そのため、9時から17時まで会社の机にいて自分の目の前で仕事させたり、いつどこにいても売りさえすればよいはずのセールスマンを朝礼や夕方の業務報告で営業所に集めたりしている。そういう仕事のやり方をしているから、日本企業の間接業務の多くはとらえどころがなく、切り出して表に出すことができない。
※週刊ポスト2013年6月7日号