激しい権力闘争に終止符を打ち、習近平氏は13億人のトップに君臨した。これから10年間、「習近平時代」が続くことになる。しかし、「銃口から政権が生まれる」と言われる彼の国で、政権の安定はあり得ない。習近平自身は人民解放軍に対し、「お前たちは国家の軍隊ではない。共産党の軍隊であることを忘れるな」と訓示しているが、現実的には軍の独断専行は危機的レベルに達している。ジャーナリストの相馬勝氏が解説する。
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軍の暴走の典型として問題になっているのが解放軍によるサイバーテロだ。米セキュリティ会社のマンディアント社の報告書によると、解放軍は2006年初めから米国を中心に世界141の政府系機関や企業に攻撃をかけ、10か月の間に新聞で6000年分以上に相当する6.5テラ(1テラは1兆)バイトもの膨大な情報を盗んだ。1764日間にわたって連続攻撃をかけたケースもあったという。
問題発覚のきっかけは昨年10月にさかのぼる。米紙ニューヨーク・タイムズが温家宝・首相ファミリーによる27億ドル(約2700億円)以上に達する巨額蓄財疑惑を報じた後、ニューヨークの同紙本社などが4か月間にわたったサイバー攻撃を受けた。
同紙がマンディアントに調査を依頼した結果、同紙や米政府機関、企業を攻撃したハッカー集団が、上海に拠点を置く中国人民解放軍総参謀部第3部3局に属する「61398部隊」である可能性が高いと結論づけたのである。
香港の軍事アナリストによると、総参謀部が率いるサイバー部隊は約40万人おり、そのうち61398部隊は約2000人だが、英語や日本語など世界12か国語に通じる人員を抱えており、全国的にも有数の部隊だという。総参謀部傘下には河南省鄭州市の信息工程大学、江蘇省南京市の理工大学、安徽省合肥市の電子工程学院の3校があり、なかでも優秀な学生が、エリートとして61398部隊に配属されるという。
政府が軍を統率しきれていないくらいだから、いくらエリート部隊といっても軍内の規律は乱れている。サイバーテロ問題はその“緩さ”によって起きた。党中央の動きに詳しい上海の識者は「彼らは若く優秀だけに、上官の命令を聞かず、自分の判断でサイバー攻撃を仕掛けるため、目立ちやすく、マンディアント社が同部隊を割り出したように、いわば無警戒なところがある。党指導部の頭痛の種だ」と指摘した。
※SAPIO2013年6月号