何を演じても独特の印象を与える俳優・近藤正臣。特に歴史上の人物を演じるときに、鮮烈な印象を与える近藤が、かつて共演した小林桂樹さんとの思い出を入り口に、みずからの芝居の特徴について語る様子を、時代劇研究家の春日太一氏が綴る。
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近藤正臣は歴史上の人物を数多く演じている。中でも、筆者に鮮烈な印象を与えてくれたのが、2001年のNHK時代劇『山田風太郎からくり事件帖』で演じた川路利良・大警視正だ。本作では西南戦争前夜の東京を舞台に、小林桂樹扮する最後の江戸町奉行と最初の警視総監・川路との虚々実々の頭脳戦が描かれている。昔堅気で武骨な小林とキザで嫌味な近藤という対極的な芝居のぶつかり合いが楽しかった。
「小林さんは大好きな役者さんなんです。芝居が柔らかいんですよね。俺なんかはどっちかというと、芝居で変化球を投げたがる。でも、小林さんはキャッチボールのような球をお投げになるんです。だから、つい受け損なってしまう。ビュンと来るかと思ったらフワっと来るから、こっちは『おっとっとっ』って。それだけに、あの作品は面白かったと同時にしんどかった。
『柔道一直線』でご一緒して、その後もテレビドラマで何度もやらせてもらった名古屋章さんには『近藤君ね、君は面白いけれども、カーブだけ投げていたら打たれるぞ』って言われたことがあります。それで時々は直球も意識してみるんですが、それでも打たれる。結局は、『どうせ打たれるなら、カーブを極めよう』と思うようになりました。
小林さんのように、キャッチボールしているみたいな自然な芝居ができた方がいいのかもしれません。でも、俺は安心できる立場に一度も立ったことがないから、ギラギラしていたんですな。だから、小林さんみたいなボールはでけへん。
若い頃から十年近くエキストラばかりしてきたものですから、少し売れたとしても『役者は喰えない』というのが掟みたいになっていて。ちょっとやそっと騒がれたところで、『これで喰えるもんじゃねえ』という意識はずっとあります」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。
※週刊ポスト2013年6月7日号