ジメジメと湿気の多いこの時期。不快感から夜なかなか寝付けずに悩んでいる人も多いのではなかろうか。あまりにも寝不足が続くようなら、睡眠時に頻繁に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の疑いもある。
SASは睡眠中、無意識のうちに舌の奥などが垂れ下がって気道を塞ぎ、呼吸が止まることによって起きる。10秒以上の無呼吸状態が一晩に30回以上、または睡眠1時間あたり5回以上あることが診断基準になる。
SASを引き起こす原因は何なのか。6月1日に寝具メーカーの丸八真綿とコラボして、新横浜にて睡眠・呼吸器専門クリニック「RESM(リズム)新横浜」を設立する白濱龍太郎院長に聞いた。
「一言で睡眠障害といっても、ベッド・枕など寝る環境の悪さから、日頃の生活習慣やストレスが原因の場合もあります。また、歯の噛み合わせ、顎関節の位置、耳鼻科領域の疾患、脳の呼吸中枢からの命令が消失……など、じつに様々な原因が考えられます」
やっかいなのは、睡眠中の出来事ゆえ自覚症状のある人が少ないこと。病名は知っていても「医療機関で受診するほどのものではない」と思われがちなのだ。
だが、慶應義塾大学病院で呼吸器内科の講師を務める福永興壱氏は、SASの危険性を指摘する。
「診断を受けて治療している患者は約20万人なのに対し、実際に診断されていない予備軍は推計200万人いると言われています。SASは様々な病気を併発するリスクがあり、高血圧は健康時の約2倍、脳卒中・脳梗塞は約3倍、うつ病リスクも約1.5倍に高まります。そう考えると、“21世紀の国民病”といっても過言ではないのです」
慶應大学チームが大手企業に勤務する518名のビジネスパーソンを対象に2年間かけて調査した結果でも、SASの治療が必要だった人が約30%おり、そのうち自覚症状を訴えた人は10%程度しかいなかったという。
これまで「肥満」にSASが多いと信じ込まれてきたことも、潜在患者を医療機関から遠ざける要因になっていた。
「健康診断で『肥満』と言われるBMI(体格指数)25以上の人にSASが多いのは確かですが、肥満を伴わない小顔や細長い顔、いわゆるイケメンの男性患者も増えています。顎が小さいから気道が塞がりやすいのです。また、最近は男性だけでなく、65歳以上の女性患者も多い。閉経後にホルモンバランスが崩れることと関係しているようです。『私は太っていないから大丈夫』ということは全くありません」(福永氏)
SASを放置すればするほど、その代償は大きくなる。特に働き盛りのサラリーマンは、昼間の職場で襲われる激しい眠気や頭痛などが仕事の集中力を著しく低下させる。
「眠れない→頭が痛い→仕事ができない→上司に怒られる→うつになる……など、SASの悪循環に陥る人は増えています。かつて、日中の眠気が原因で生じる経済損失は年に3兆5000億円とのデータが発表されたこともあり、患者だけでなく、企業活動全体に与える影響も決して少なくないのです」(福永氏)
さらに、これまでSASの関与する重大な事故も多数起きている。
「米国・スリーマイル島の原発事故(1979年)や、ロシア・チェルノブイリ原発事故(1986年)、日本では2003年に起きたJR山陽新幹線のオーバーランなど、いずれもSASによる居眠りが原因だとされています。アメリカでは1993年に国家規模で睡眠呼吸障害の対策を開始したほど。日本も『たかが睡眠』と軽視せず、患者の意識を高めて治療体制を整備しなければ、患者は増え続けて大きな経済的・社会的損失につながります」(前出・白濱氏)
「RESM新横浜」では、最新のデジタルレントゲンや呼吸機能検査のほか、1泊入院の睡眠脳波検査も受けられる。治療にはCPAP(鼻につけたマスクから空気を送り気道の閉塞を防ぐ)やマウスピース療法、提携病院と連携した外科治療など、あらゆる対策を施していく構えだ。
「寝る間を惜しんで働くことを美徳としてきた日本人の睡眠事情を改める時期にきています。このままでは、肥満、脂質、血圧、血糖などのリスクが重なる生活習慣病にSASが加わり、“死の五重奏”になってしまいます」(福永氏)
睡眠は健康のバロメーター。働き方を見直すことも必要かもしれない。