<自分がみすぼらしい中高年になるとは想像もできない若い人たちが多すぎるのではないでしょうか>
林真理子さん(59才)初となる人生論『野心のすすめ』(講談社現代新書)にある一節だ。
本の中で林さんは、それは若い人たちが“野心を抱かなくなったから”だと見る。常に高みを目指し、今ある自分より少しでも上に行こうと思うこと、そして将来の夢の実現を目指して、努力し続けること。その大切さを、林さんは失敗と屈辱に満ちた自身の青春時代を赤裸々に明かすことさえして、説いている。
その姿勢が20~30代の女性を中心に共感を呼び、同書は現在20万部を超えるベストセラーに。
今、R40、R50になっている私たちはひょっとして、林さんの言う“みすぼらしい中高年”になってはいないか。そうならないためには、どうすべきか。林さんに野心の“効用”を聞いた。
「先日、人気のバラエティー番組『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS系)の収録があって、私の半生を再現ドラマにしてくれたんです。そしたら、“えーっ、林真理子って、こんな人生歩いてきたの?”って、スタジオでどよめきが起こったんです。(放送予定日は未定)
若い人たちが驚いたり、新鮮に受け止めた私の半生というのは、大輪の野心が開花した人生といえると思うんです。野心といえば腹黒かったりあつかましいイメージが先行し、野心家となるとほとんど悪人扱い。でも、そうした野心があったから、今の私がある。野心を持たずに決して夢はかなわないと思っています」(林さん)
林真理子さんは1954年、山梨県に生まれた。大学卒業後、コピーライターとなり、1982年、初めての著書となるエッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が文庫と合わせ100万部を超える大ヒット、その名を世間に知らしめた。
これを機にコピーライターから作家に転身。1986年、『最終便に間に合えば/京都まで』で直木賞受賞。柴田錬三郎賞を受賞した『白蓮れんれん』などの小説で高い評価を受ける一方、美容、ダイエットの悩みなど作家らしくない本音のエッセイも人気を博している。
1990年に36才で結婚、44才という高齢での出産など、その言動が常に注目され、話題になってきた。
「今、野心を持たない、『低め安定』の人々が、あまりに多いんじゃないでしょうか。とりあえず食べていくことができれば、なんとかなるさという考えの人が圧倒的に増えているでしょう。若い人たちに専業主婦になりたいという人が増えているようですが、彼女たちがなりたいのは、ただの専業主婦ではなくて、お金には一切不自由しない“裕福な専業主婦”。でも、はっきり言って、そんなの無理です。
先日も、学生と話していたら、“うちの母は、幸せな専業主婦です。私もこういう人になりたいんです。別に野心なんか持たなくてもいい”と言う。私はその子に言いました。“それは日本の経済が好調だった昭和から平成初期までの話だと思いますよ。今や一流企業に勤めてたって、いつリストラに遭うかわからないのだから、この先そんな牧歌的ないい時代は来ないと思う”って。
悠々自適の専業主婦で、家計のやりくりに悩むことなく、子供を名門私立に通わせ、夫の不倫に悩むこともない“絶対安全専業主婦”になることなど万に一つのチャンスでしかないんですから。実際に『野心のすすめ』を読んだ私と同世代の人たちは言っています。“もっと早く読みたかった”って。“20年前にこの本を読んでいたら、私も野心を持って違う人生を歩いていたんじゃないかと思う”って。
仕事だけで生きてきた人は、結婚すればよかったと言うし、専業主婦になった人は、仕事をやめなければよかったと言う。どちらの後悔もしないで生きるには、野心を持つことだと私は思っています。
仕事を持つ人には“絶対に仕事をやめないで”と言いたいし、仕事だけの人には、“結婚できなくても子供は産んで。夫はあとからついてくる(笑い)”と言っています。“してしまったことの後悔”はどんどん小さくすることができるけど、“しなかったことの後悔”って、どんどん大きくなるんです。
“でも、それは運や才能に恵まれた人の話。それがない私たちはどうすればいいの?”って反発する人もいるかもしれません。だからこそ、野心と努力なんです」(林さん)
※女性セブン2013年6月13日号