今年、野球の世界一決定戦WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で優勝を果たした野球大国ドミニカ。メジャーも有望株を発掘するため、全30球団のうち28球団が選手養成のアカデミーを置く。
同国ナハージョにあるサンディエゴ・パドレスのアカデミーに行くと、それまでと光景が一変した。美しく整備された芝生がまぶしい。2面のグラウンド、内野守備用のフィールド、室内練習場、ブルペンを備え、選手宿舎はリゾートホテルのような外観だ。
中南米各地から集められた選手らは、メジャーのピラミッドでは最下層に位置するものの、プロの肉体を有していた。走塁練習では飛び跳ねるように駆け、投手はしなやかな腕の振りから豪速球を投げ込む。練習を見つめていた投手コーチのジャスティン・ケサダが誇らし気に語った。
「ドミニカ人は野球への誇りがあり、それがパワー、スピードという身体的特徴を引き出していく」
一方、短所は規律の欠如だ。貧困で学校に通えず、集団生活や自身を律する心に欠けているため、アカデミーでは基礎練習を徹底させながら規律を教え込んでいく。
規律を身につけた者は、チャンスを得る可能性が広がる。スカウトとして横浜DeNAのブランコ、中日のルナを日本に送り込んだドミンゴ・マルティネス(元西武)がいう。
「日本のプロ野球の練習は本当にきつい。ドミニカ人が適応するにはメンタルの強さが必要だ。そういう選手を探し出している」
もちろん、若者が目指す先はメジャーだ。3年前にインディアンスとマイナー契約し、昨季2Aでプレーした20歳のマニー・ロドリゲスは生活環境が改善され、さらなる向上心が湧き出てきた。
「昔は貧乏だったけど、今は食べ物があるし、お金を稼いで家族に家を買えた。もっと稼がないと!」
少年の頃は野球に夢を見て、大人になれば野球を生活の手段にし、さらなる夢を抱く。そこに教育や人の絆が密接に絡み合っていく。ドミニカが次々と名選手を輩出する背景には、野球の好循環がある。
撮影■龍フェルケル 文■中島大輔
※週刊ポスト2013年6月7日号