夜の街・銀座。女たちが主役の世界で、黒衣に徹しその裏を支える黒服たち。裸一貫で入店し、ボーイ、店長、幹部、そして社長へと銀座の夜を極めた「伝説の黒服」のひとり、GSK副会長で元ロートレック代表取締役社長の奥澤健二氏が、その光と影を語った──。
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16歳のとき、当時働いていた店で石原裕次郎さんが“最近、頑張ってるな”と。突然のことにもう緊張して声も出ないよね。そうしたら、上着から万年筆を取り出して握らせてくれた。大統領が愛用したというシェーファー社のものでした。ものすごい励みになりましたよ。それから、立場を超えた距離感、親近感を感じられる夜の街の魅力に引き寄せられていきました。
私は、皿洗いから始まって20年で独立して……もう半世紀はこの街に携わってるね(笑い)。バブルの頃には、6店舗経営していました。誕生日には100本ものシャンパンが空いて、1日数千万円売り上げ、もう私自身勘違いしそうな時でした。あの時期は大金を使う人ばかり重宝されて、昔ながらのお客様からお叱りを受けたこともあります。
粋なお客様は、例えばそれほど使っていないお客様に対して黒服やホステスが丁寧に対応する姿を見て「この店はシッカリしている」と評価する。この価値観を持てるのが本当のステータス。そういう方に店の品格は支えられてきたんでしょうね。
以前、ホステス引き抜きの件で揉めて、ある店同士が路上で一触即発の事態があったんです。そのときロールスロイスから降りてきたある社長が瞬時に空気を読んで「店行って飲むぞ」と。その一言で場がおさまったこともありました。
事実は小説より奇なりというか、かっこいいお客様も多かった。最近はそういう方が少なくなった気がして寂しいですね。
私は一線を退いたいまも週2~3回銀座にいます。ずっと離れられないんだろうね(笑い)
※週刊ポスト2013年6月7日号