一説によると、日本のファミリーレストランは1970年の「すかいらーく」がその始まりだといわれる。現在国内にあるファミレスは約1万店、人口10万人当たりでもっとも多いのは、東京ではなく山梨県だった。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がその理由を考察する。
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「ロイヤルホスト」を運営するファミリーレストラン大手、ロイヤルホールディングスが若手社員の基本給を最大5%引き上げることを決定した。実は同社の本社があるのは福岡県の博多。ほかのチェーンでも、実は「神戸屋レストラン」の本社が神奈川県海老名市、サイゼリヤは埼玉県吉川市、「びっくりドンキー」は運営会社のアレフ本社が札幌にあるなど、「ファミレス」の地域性には意外な一面がある。
例えばインターネット版のタウンページで「ファミリーレストラン」というキーワードで検索をかけてみる。すると件数が多くヒットするのはやはり東京都だ。1254件がヒットし、以下神奈川県(855件)、埼玉県(815件)、千葉県(676件)と続く。圧倒的に東京都をはじめとした首都圏が強い。実際ヒット数がもっとも少ないのも、人口が47都道府県中最少の鳥取県(30件)だ。もっとも、人口の多いエリアに店舗が多いのは当然といえば当然だ。では人口比で見るとどうなるか。
人口比でもやはり首都圏は強い。だがトップは入れ替わる。第1位は件数順では25位だった山梨県がいきなりのジャンプアップ。人口10万人あたりの店舗数で12.3店となっている。以下、2位に埼玉県(11.3件)、3位に千葉県(10.9件)、4位に件数順では12位だった長野県(10件)が飛び込んできた。
ファミリーレストラン(ファミレス)には、ロードサイド型の店舗も多い。それだけに、車両の保有台数や道路の整備状況など他の要素もランキングを左右するのだ。
例えば人口比店舗数で第1位の山梨県は、首都圏整備法が定義する「首都圏」に含まれる1都7県において、唯一1000人あたりの道路延長(長さ)が2kmを超える“道路天国”だ。さらに人口ひとりあたりの車両保有台数でも全国6位。その一方で、富士山をはじめ県内には山間部も多い。平地の少なさも手伝ってか、県の面積に占める道路延長率は首都圏最短となっている。自然と道路の周りには、住居や店舗が集まることになる。
しかも山梨県は、東京都と長野県を結ぶ甲州街道──現在の国道20号という、首都圏有数の幹線道路も擁している。ファミレスというロードサイド業態が充実するための条件が、揃い過ぎるほど揃っているのだ。
一方、人口比でもっともファミレスが少ないのは沖縄県。10万人あたり3.7件と群を抜いて少ない。もっともこれは仕方のない話で、沖縄県は人口あたりの居酒屋店舗数、全国第一位。人口10万人あたり138軒という、とてつもない一大飲食産業が栄えている。泡盛を呑み、カチャーシーを踊る。そんな地域の憩いの場が、ファミレスである必要はない。
各地方には、その地域にふさわしい飲食店が栄えている。