日本人女性の16人に1人が発症する乳がん(国立がんセンター2004年データより)。生死の問題のみならず、手術で乳房を“取るか取らないか”は、女性としての生き方や尊厳にかかわる。乳がんが増えてきた背景には戦後の食の欧米化が大きくかかわっていると話すのは、乳房再建の第一人者で医学博士の南雲吉則さん。
「乳がん発症率と関係する肉や乳製品中心の食生活になってきたことで、この約30年で患者数が約6倍に増加しました。また、女性の出生率が低下したことも影響しています(2012年の合計特殊出生率*1.39)。妊娠期、授乳期は女性ホルモンの分泌量が減りますが、出産率が下がった今、女性ホルモンが分泌される期間が長くなり、それに伴って発症率も高くなったのです」(以下「」内、南雲さん)
同時に治療法も進歩した。約50年前は乳がん手術といえば、“がんが転移する可能性がある部位はすべて切除する”という「ハルステッド手術」が主流だった。しかし、筋肉やリンパまで切除するため、“腕が上がらなくなる”など後遺症に苦しむ人もいた。
「しかし、実はリンパや胸の筋肉を残す手術をしても、術後の生存率が変わらないことがわかったんです。ハルステッド手術は1979年頃から徐々に減少し、現在ではほとんど行われていません」
その後、胸筋を残してリンパと乳房を切除する「胸筋温存乳房切除術」の時代を経て、乳房を残す「乳房温存手術」が、1987年に日本で紹介され、増加した。乳がんに対するイメージも、“死ぬ病気”から、“どこを切り取るか選ぶ病気”に変わっていった。
「ただ、乳房温存手術は再発率が高いのが難点。そこで、最近では乳房を全摘出してから美しく再建する『乳房再建手術』に注目が集まっています。これにより、再発率の低下と、がんによって胸のふくらみを失うということへの精神的苦痛が軽減されたと、私は感じています」
*合計特殊出生率=1人の女性が一生に産む子供の平均数。
※女性セブン2013年6月13日号