戦後日本の復興に人生をかけた男たちを描いた『海賊と呼ばれた男』(講談社刊)で2013年の本屋大賞を受賞した百田尚樹氏。日本人としてのありようを語った。
──日本では、いつの間にか“努力はダサイ”“がむしゃらに頑張るのはカッコ悪い”と見なされるようになった。
百田:そうですね。今の大学生らと話をすると、「自分の好きなことを仕事にしたい」と言いますが、僕なんかは、好きなことなら仕事ではなく趣味にすればいいだろう、金をもらわずに金を払ってやればいいだろうと思うんですね。戦後の復興を支えた人たちの仕事がそうであったように、本当はどんな仕事にも喜び、誇りがあるはずなのに、テレビ局の仕事とか、丸の内の一流企業の仕事とか、そういう華やかに見える仕事にばかり憧れる。
──働くことについての考え方が昔と今ではまったく違う。
百田:昔の人は自分が生きるために働き、同時に家族のため、国のためという思いがあった。でも、今の若い人は仕事を〝自己実現〟の道具と考え、“自分探し”と称して就職しなかったり、職を転々としたりする人もいるでしょう。まともな仕事がないと言われますが、コンビニでは外国人が働いている。若い人はよく「日本は夢がない」と言いますが、その同じ人がブランド物のバッグを持ち、携帯でゲームを楽しんでいる。なんかおかしいやろと思いますよ。
結局、豊かになりすぎたのです。僕は死ぬことを運命づけられた零戦パイロットを描いた『永遠の0』で、人は何のために生きるのか、誰のために生きるのかを問い掛け、生きることの喜びや素晴らしさを訴えたつもりですが、今の人は豊かになりすぎて、そういう基本的なことを忘れてしまったのです。
そして、「自分は他人より厳しい状況に置かれている」とルサンチマン(内なる怒り)を抱えてしまう。しかし、愚痴っても何も解決されません。
※SAPIO2013年6月号