一時1万5000円を大きく超えて上昇を続けた日経平均株価だが、5月23日に1143円急落し、その後も乱高下を演じている。
長引く閉塞感を一点突破しようと「アベノミクス」に過大なまでに寄せられた人々の「期待」が、「不安」へと変わろうとしている。
それは数値のうえでも読み取ることができる。日経平均株価の先行きの振れ幅の予想を指数化した「日経平均VI(ボラティリティー・インデックス)」。平時は20台で推移するが、将来の変動幅が大きくなるという不安が広がると、その数値が高まることから、別名「恐怖指数」とも呼ばれている。あの「暗黒の木曜日」となった5月23日には、同指数が前日の27.61から43.74へと一気に跳ね上がり、東日本大震災直後以来となる高水準を記録したのだ。
日経平均VIは2008年のリーマン・ショックの時に90を超え、大震災時には70近くまで上昇したので、それらには及ばないものの、株価が順調に上昇ラインを描いていた時期での暴落だったために、「43」の衝撃は大きかった。
その後も日経平均は1日で1000円を超える値幅が続く乱高下に見舞われ、恐怖指数も依然高止まりしている。株式市場を取り巻く不安は一向に晴れようとはしていない。
そうしたなか、最も“大ケガ”をしたのは、日経平均が1万5000円を突破する勢いを信じきって、信用取引で新たに株式市場に参戦した個人投資家である。
信用取引とは、委託保証金を担保に証券会社から資金や証券を借りて売買する手法で、自己資金の約3倍まで取引できるため、少ない元手で大きなリターンが狙える。さらに今年1月からは同じ保証金で1日に何回でも売買できる規制緩和が始まったことから、投機性は格段に高まっていた。
これにアベノミクス相場が重なったことから、「買えば上がる」という好循環が生まれた。信用取引の儲けを示す「信用評価損益率」は、特に日銀が異次元金融緩和を打ち出した4月に入ってからプラスが続いていた。
だが、これは明らかに異常事態だった。通常、投資家は利益の出ている銘柄から売却し、損の出ている銘柄は保有し続ける傾向があるため、信用評価損益率はマイナスで推移するのが一般的とされる。
それが、あの「5.23」を境に再びマイナスに転じ(松井証券集計)、損失を抱える“正常な状態”に戻ったのである。
東証の投資部門別売買状況を見ても、個人投資家の出遅れは顕著だ。相場の主役である外国人投資家はアベノミクス相場が幕を切った昨年11月中旬から大きく買い越し、したたかに安値で仕込んできた。それに対し、国内の個人投資家は日経平均が1万5000円に近づくまで売り越しが目立ち、さほどのリターンを手にできていないばかりか、高値掴みさせられた傾向さえある。
※週刊ポスト2013年6月14日号