東洋一の歓楽街、新宿・歌舞伎町。カネ、性、暴力……人間のあらゆる欲望が渦巻くこの街は、近年その輝きを失ったといわれてきた。だが16年間、この街を撮り続けるドキュメンタリー写真家の権徹(ゴン・チョル)氏は、真っ向から否定する。
「浄化作戦以降、活気がなくなったという声を聞きますが、まったくの誤解です。人間の本質が変わらない限り、この街も何も変わりません」
2003年、石原慎太郎都知事(当時)の号令で開始された浄化作戦。2005年までに約280店が摘発、暴力団関係者ら約400人が逮捕・送検され、不法滞在で摘発された外国人は1000人以上に上った。
「確かに韓国クラブなどはほぼ全滅しました。ただ結局、別の人間が同じような店を出すだけだし、街にはそれまでなかった新たなトラブルが出始めた。浄化など単なるパフォーマンスです」
最近は半グレや学生、外国人たちが一般人と揉み合いになるシーンが目立つという。
「客引きが一般人を集団リンチしたり、ヤッツケ(カネだけとって逃げる悪質なポン引き)が出たり。黒人勢力の台頭も著しく、彼らの悪質な店では一晩で請求が何十万円ということもある。原因はヤクザの力が弱まったためだと思われます。変な言い方になりますが、以前ならケツモチのヤクザが目を光らせていたから、そんなことはなかった」
今年2月には、勢力を増す黒人たちがヤクザと正面衝突する抗争が勃発。警察が大量に出動した。権氏はその場面もカメラに収めた。
「ここは“戦場”ですよ。本当の殺し合いもあるし、レンズに血が飛び散ることも日常茶飯事。でもその一方では、男女のラブシーンもある。僕は渋谷や六本木、韓国の繁華街も撮ってみましたが何か違う。歌舞伎町は人間の全ての欲望を体現する、僕にとっては“完璧”な街なんです」
【プロフィール】
●ゴン・チョル/1967年韓国生まれ。大学在学中の1988年に休学して海兵隊に入隊。94年来日。今年2月に発表した写真集『歌舞伎町』(扶桑社刊)が、第44回講談社出版文化賞写真賞を受賞した。
※週刊ポスト2013年6月14日号