かつてファストフード分野をリードしてきたハンバーガー業界。中でもデフレの雄と持て囃されてきたマクドナルドの凋落ぶりは、都心部の混雑した店舗を見る限り、にわかには信じがたい。
だが、昨年4月から月次の既存店売上高は13か月のマイナス。2013年1~3月期決算でも売上高が2001年7月の上場以来最低となる659億円(前年同期比14.6%減)にとどまるなど、「外食王者」の面影は今やない。
外食業界担当の証券アナリストは、マック業績不振の要因をこう分析する。
「社長(日本マクドナルドホールディングスの原田泳幸氏)は3.11後の消費行動の変化を挙げていますが、100円マックの価格インパクトはそれ以前になくなっていましたし、『ビッグアメリカ』など期間限定の高価格バーガーも商品企画やマーケティング面でうまく消費者にアピールできなかった」
そもそも既存メニューのハンバーガー類を値下げして、サイドメニューのポテトやジュースなどで利益を稼ぐ業界全般の収益構造は、いずれ経営体力を奪っていくと見られていた。フードコンサルタントの白根智彦氏がいう。
「一般的なハンバーガー店でノーマルのハンバーガーを作ろうとしたら、バンズ(パン)が20円、肉が30円、ピクルスやタマネギ、ケチャップなどが10円と約60円の原価がかかります。仮に100円で売ろうとしたら原価は6割にも達します。マックはそれを企業努力で3割程度にまで落としているのかもしれませんが、消費者はすでに低価格に慣れ過ぎていて、おトク感が伝わらなかったのです」
苦境に立たされたマックは、原価率の低いポテトの巨大サイズ「メガポテト」や、かつてレギュラーメニューだったチキンタツタの期間限定販売などで巻き返しを図っている。今年度は小型店約200店の閉鎖やロイヤルティが見込めるフランチャイズ化の促進など、拡大路線の見直しも行っていく構えだ。
そんなマックの不振をむしろ好機と捉え、閉鎖したマックの跡地を中心にモスバーガーやフレッシュネスバーガーといった高価格帯の競合チェーンが出店を加速する意向だという。しかし、マックがモスになったからといって、収益性が急激に高まるとは限らない。
「もともとマックが緻密なマーケティングをして店を構えていた場所だから、ある程度の集客は見込めるし、改めて店舗戦略を練る必要はないでしょう。でも、モスもフレッシュネスもハンバーガー類のメニューにさほど目新しさは感じません。結局、『モスカフェ』のように業態を変えながらコーヒーやケーキを売るなど、バーガー以外で利益率の高い商品で採算を確保するしかないでしょう」(前出・白根氏)
スターバックスを例にみるカフェチェーンの好調ぶりやコンビニコーヒーの台頭は、ハンバーガー業界をも触発し続けている。モスカフェは既存のモスバーガー店より130円高い350円のコーヒーを提供し、売上高比率を高める。また、“ハンバーガーカフェ”を謳うフレッシュネスも、オーガニックティーや絞りたて果汁のジュースなどドリンク類の充実が目を引く。
マックもその波に乗り遅れているわけではない。コーヒー専門業態のマックカフェを持つうえ、コーヒー職人(専任バリスタ)がいる高単価カフェも今年末までに100店以上に増やすとしている。
こうしてみると、ハンバーガーチェーンの“脱バーガー”路線はより鮮明になっている。
「画一的なメニューをただ安く売っているだけでは、ますますコンビニに勝てません。ハンバーガーチェーンとして再び人気を取り戻すには、原点に返って素材から見直し、本当に美味しくて斬新なハンバーガーを作らない限り、単独ブランドでの生き残りは難しいでしょう」
価格ではなく、商品自体に変革が求められる時代。今後はファストフードという業態から抜け出す選択肢も出てくるのかもしれない。