「世界の工場」として繁栄を支えた先進国の一流企業の多くが、中国から引き揚げる動きを見せている。
「現在の中国における生産比率は約70%。今後はベトナムやバングラデシュ、インドネシアでの生産比率を高め、将来は中国以外の国で3分の1、中国は3分の2にしたい。起こりうるリスクを考えた上で、どこで生産し、どこで展開していく必要があるのか、最適な答えを常に探している」
そう話すのはユニクロを展開するファーストリテイリング(広報部)だ。同社のヒット商品「ヒートテック」を生産している東レも、タイやマレーシアなど中国以外での生産比率を高める方針を決めた。
また自動車部品の成形樹脂加工大手の児玉化学工業は、天津の子会社を地元企業に売却し、現地から撤退。
ラインが稼働する前に撤退を決めたのがセントラル硝子だ。リチウムイオン電池用の高濃度溶液を製造する目的で、中国で合弁会社を設立したものの、最終的に相手と条件が折り合わず、合弁を解消して会社を清算した。
「何でも中国に持っていけばなんとかなると考えていたのが誤算だった。これからの中国ビジネスは選別が必要になる」(同社社員)
中国進出を回避する動きも出てきた。信越化学工業はハイブリッド車のモーターなどに使うレアアース(希土類)の加工拠点を中国ではなくベトナムに新設した。
「アメリカやオーストラリアなどでもレアアースの鉱山開発が進められ、世界的に中国依存度を下げる取り組みが始まっている。当社も調達先を増やして調達リスクの軽減を図るとともに、ベトナムにも有力な鉱脈があるといわれているので、そこからの調達も視野に入れたい」(広報部)
中国離れの動きは日系企業にとどまらない。米アップルは同社の製品の組み立て最大手の富士康科技集団(フォックスコン)を帯同し、生産ラインの一部を米国に移すと発表した。世界最大の電子機器の受託メーカー鴻海(ホンハイ)精密工業(台湾)の子会社であるフォックスコンは民間企業では中国最大の雇用の受け皿であり、150万人の従業員がいる。生産移転が現実のものになれば影響は計り知れない。
またスポーツ用品メーカーの独アディダスは中国にある直営工場をすべて閉鎖。スターバックスはコーヒーカップの製造工場を米国に戻す見通しという。
※SAPIO2013年6月号