橋下徹・大阪市長の「風俗」発言が各所でバッシングを受けたが、この問題点を整理するには、知っておくべきことが多い。江戸時代に確立したお上と遊廓の関係は、現在の警察と風俗業の関係まで続いていると風俗評論家の岩永文夫氏はいう。
「たとえば、吉原のソープ街で警察が動く場合は警視庁か所轄の浅草警察署のどちらかだが、ガサ(家宅捜索)が入った場合に、業者は『あれは警視庁だ、やばいね』とか、『浅警(浅草警察署)だから、たいしたことないだろう』とかいう。業者は警視庁にはルートがないが、浅警とはキャッチボールできる関係があるから安心だということ。
そうした関係は全国であります。風俗業者の組合が地元警察の忘年会にビールを差し入れる、代わりに警察は保健所の立ち入り検査の情報をこっそり事前に教えてあげる。
たとえばソープランドは建前上、『浴場』なので、『泡踊り』に使うマットレスは置いてはいけないことになっている。そこで保健所の検査が入るときは、人目がない屋上に持っていったり、時間がなければ千枚通しで穴を空けて空気を抜いて捨てる。また『個室サウナ』の建前があるので部屋に簡易サウナを置いたり、検査時に倉庫から運びこんだりする。そうやって検査を逃れてきた」
実際に警察が風俗店を摘発する要件としては、未成年の勤務、暴力団の経営参加、無許可あるいは禁止区域内での営業、そして本番行為、すなわち「管理売春」を行なっている場合などが該当する。だが、これらが事件化されるのは、覚せい剤などで別件逮捕された場合や、女性が交番に駆け込んで「あそこで売春を強要されました」と訴える場合など、シチュエーションはごく限られる。
それでは、警察が自発的に風俗店を摘発することはないのか。裏社会を取材するルポライターの鈴木大介氏はいう。
「警察の生活安全課関係者から聞いた話では、摘発数のノルマや強化月間があるといいます。そこで彼らはノルマ達成のために逮捕はするけれど、立件まではしないというケースが多い。たとえば援デリ(組織的に運営される援助交際デリバリー)の場合、起訴するためには経営者が女性からおカネを吸い上げていることを立証しなければならないため、立件が困難になる。
そこで警察は逮捕だけして不起訴にしたのち、経営者に『お茶しよう』と連絡して、未成年を雇っているといった、より悪質な業者の情報収集をするんです。とくにいまは未成年を使っている業者が狙われますから、強化月間に義務教育世代の未成年が在籍する店を摘発するのが、警察の一番の狙いです」
※週刊ポスト2013年6月7日号