自国の医療や製品が信じられない中国人のなかにはすでに“行動”を起こし始めた者がいる。在米ジャーナリストの高濱賛氏が、中国人の「チャイナ・フリー生活」についてリポートする。
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「医療はアメリカのほうが進んでいて、中国より安全。それに将来は子供にアメリカの教育を受けさせたいから、市民権があるほうが便利でしょ。非合法なことじゃないし」
はるばる上海からロサンゼルス近郊のチノ・ヒルズに出産のため渡米して来た中国人妊婦の一人はそう語る。近年アメリカでは中国人の「Birth Tourism」(出産ツアー)が急増中。中国本土から、観光ビザを握り締めた身重の女性が殺到しているのだ。
中国人妊婦たちには自国の医療サービスへの拭い難い不信感がある。これは医療に限ったことではなく、中国人による自国製品の“不買行動”は、経済発展と比例して活発化しているから皮肉である。
昨年来、ドイツやオランダなど欧州諸国では新生児用粉ミルクが深刻な品薄状態となっている。中国人観光客が大量に買い漁っているためだ。2008年に中国製粉ミルクに工業用メラミンが混入していた事件が発覚して以来、中国人は自国製をボイコット。輸入品に殺到したが、すぐに品薄となった。
そのため個人や業者が外国まで買い出しに行く事態となっている。中国人の買い占めによりドイツでは粉ミルクの価格が倍以上に跳ね上がり、ロンドンのスーパーや薬局は「購入は1人2個まで」とする販売制限を始めた。
さらに「中国製の紙おむつでは赤ちゃんのお尻がかぶれる」という情報が広がり、中国人の母親は中国製をボイコット。特に日本製に人気が集中して貴重品となり、偽物が出回る事態となっている。
中国紙「法制晩報」が昨夏に行なった世論調査によれば、中国人の80.4%が中国産食品の安全性に疑問を抱いており、政府による食品安全検査などを信用していない。特に生肉や肉加工製品、スーパーで売っている惣菜などの安全性に疑問を持っているという。中国人の「チャイナ・フリー(中国製を使わない)生活」は、ますます広がりそうだ。
※SAPIO2013年6月号