数年前から、奨学金を返さない人が多いために、奨学金そのものの運営が困難になっているという。未返還金は総額876億円にものぼる。その返済のために風俗業へ転身する女性たちを、作家の山藤章一郎氏がリポートする。
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21歳。神田外国語大学を中退したアカネが、ペペロンチーノに粉チーズを一心不乱にふりかけている。高円寺のイタめし屋。
「あたし、子どもの時からこれ、なんにでもかけちゃうの。母親に恋人がいて3、4日帰ってこない。家、横浜。で、両親離婚して、母子家庭。母親いないとき、ご飯にも納豆にも粉チーズかけてた」
頼んだ用紙を持ってきていた。テーブルに置いてある。〈貸与奨学金返還確認票〉という。〈日本学生支援機構〉の発行。アカネの〈借用金額〉は70万円。その数字が大書されて、〈貸与〉の〈期間〉〈月額〉〈計〉の記載がつづく。母親と叔父が連帯保証をしている。で、70万をどう返す。
眼だけが格別大きく、とんぼ顔のアカネは、パスタをフォークに巻きつけながら口をとがらせた。
「でしょう? 見て、そこ。返還回数120回。割賦金って、なに? まあ月々割って返せってことでしょうけど。ほれでなに? 利子込み総支払額82万2963円よ。親におカネがあったら借りなかったよ。高校時代の居酒屋とサンドウイッチ屋のバイトでなんとか大学に入ったの。でもそのあと、教科書、副読本、施設費、コンパって。後期に突入する前に、払えなくなって結局退学です」
で、五反田のガールズバーのバイトに出た。1晩7500円×22日=16万5000円。家賃、5万2000円。スマホ、1万4000円。奨学金、6935円。食費1食500円×3=1日1500円。ほかに光熱費、交通費がかかる。
「3食菓子パン、牛乳で流し込む日もあって。粉チーズも買えない。栄養不足でずっと口内炎でした」
一念発起した。来週から鶯谷でデリヘル仕事に転ずる。
「粉チーズや食材を気兼ねなく買い、スマホも使い、奨学金返して、贅沢せず貯金に励みます」
そして身を乗り出した。
「子どもの貧困を断つ法の制定を求めるデモ……大学の同級生が実行委員長になってるの。明日、代々木公園へ、一緒に行かない?」
※週刊ポスト2013年6月14日号