5月21日午前8時、神奈川県内の住宅街。ランドセルを背負った長男(6才)の手を引いて学校へと急ぐA子さん(31才)を襲ったストーカー殺人未遂事件。事件から2日後、殺人未遂の疑いで逮捕されたのは、塾経営者・貞苅詩門容疑者(32才)。2006年に離婚したA子さんの元夫だった。
学習院大学文学部の同級生だったふたり。卒業後に交際をスタートさせた。交際わずか2か月後の2005年3月にふたりは結婚。埼玉県内の貞苅容疑者の両親と弟が暮らす実家で、新婚生活をスタートさせたが、彼女は夫からDVを受けるようになった。
子供を授かったA子さんは、お腹の子を守るために2005年12月、神奈川県内の実家へと逃げ帰った。しかし、貞苅容疑者はそんなA子さんを許さなかった。
貞苅容疑者はA子さんの実家周辺をこれみよがしにうろつき、実家のドアに“お前の居場所はわかっているぞ”といわんばかりの張り紙までするようになった。
貞苅容疑者の魔の手から逃れるため、A子さんが行ったのが横浜地方裁判所への保護命令申し立てだ。1か月後の2006年1月、A子さんの申し立てが認められて、貞苅容疑者に6か月間、被害者の身辺につきまとったり、家や勤務先周辺をうろつくことを禁じる「接近禁止命令」が下された。
ようやく離婚が成立したのは2006年5月。出産のわずか1か月前のことだった。そして生まれてきた長男。この子の命を守らなければ…、A子さんは赤ちゃんとともに、貞苅容疑者がいつ現れるかもしれない実家を離れ、DV・ストーカー被害者の避難施設=シェルターへと駆け込んだ。
シェルターとは、DV・ストーカー被害者などを“一時的に”受け入れる施設のこと。民間支援団体がマンションやアパートなどに被害者やその家族を迎え入れ、必要なサポートを提供する。
「入居者の安全を第一に運営されているため、加害者に情報がもれることはまずありません。居場所が誰にも知られることがないように、入居者自身にも、携帯電話を持ち込まないなど、危険回避のためのルールがあります」(全国女性シェルターネットの近藤恵子共同代表)
親や友達とも離れ、ただ母子2人、元夫の影に脅えながら、A子さんはこの施設で3年間を過ごした。その甲斐あってか、貞苅容疑者によるストーカー行為も、実家への嫌がらせもなくなっていた。このままシェルターでの避難生活を続ければ、安全な生活は保障される。しかし、そこで一生、暮らし続けるわけにはいかなかった。
「A子さんには、長男にきちんとした教育を受けさせたいという思いがあったんです。小学校にも行かせて学校生活を楽しんでほしいって…」(A子さんの知人)
そのためには、いつまでも隠れ潜んでいるわけにはいかない。そのうえ、あれから3年の月日も過ぎている。2009年10月、A子さんはアパートを借りて、3才になった子供との生活を始めた。ただし、用心は絶やさなかった。もしもの場合に備えて住民票の閲覧制限をし、自分と長男は偽名を使って生活をした。
しかし――貞苅容疑者は彼女たちのことを諦めたわけでも、忘れていたわけでもなかった。ただ、待っていたのだ。居場所を突き止められる日が来るのを。
A子さん親子がシェルターで避難生活を送っていた3年間も、貞苅容疑者は探偵社を使ってA子さんの所在を探し続けていた。そして、A子さんがシェルターを出たことで、ようやく元妻と子供の居場所を突き止めた。
それだけではない。貞苅容疑者はその探偵社を使い、突き止めたA子さんの自宅マンション前に隠しカメラを積んだ自転車を置かせ、そのカメラを通して、A子さんの生活の一部始終を把握しようと覗き続けていた。
そして、貞苅容疑者は狙いすましたかのように凶行に及んだのである。7年前の貞苅容疑者のブログには、A子さんへの憎しみがこう綴られている。
<俺を馬鹿にした奴は許さない。(中略)本来ならあいつを殺さねば気が治まらん>
貞苅容疑者はこの殺意を実に7年もの間、持ち続けて、実行に移した。
※女性セブン2013年6月20日号