「東日本大震災の惨状が伝えられ『自分たちも被災地で支援をしたい』という声が社内で高まりました。その声に押されるように、2011年4月から社員をボランティアとして派遣しました」
三菱商事の環境・CSR推進部復興支援チームリーダーの中川剛之氏(37)はこう語る。
これまで被災地に入った社員は2000人を超える。交通手段や宿泊先などは会社が手配し、社員は2泊3日で泥だらけの民家の復旧作業や農地再生作業などを行なってきた。その活動は現在も継続されている。2000人以上を送り込んだのは、一企業としてはかなり多い。中川氏自身も、これまで70回ほど被災地に入ったという。
三菱商事社員が徹底的に叩き込まれる企業理念の「三綱領」に「所期奉公」というものがある。事業活動の究極の目的は社会への貢献という考え方だ。それが社員たちを衝き動かした。
継続的な支援をするための仕組みもできた。2012年3月に設立された「三菱商事復興支援財団」だ。経済的事由により修学が困難な被災学生を対象に月額10万円の奨学金(支給期間1年、返済不要)を出すほか、被災した企業の再建を資金的に支える「産業復興・雇用創出支援」などの事業を行なっている。
「2012年度までに、奨学金はのべ約1700人に出しています。学生には作文を書いてもらっていますが、感謝の言葉とともに『いつか地元の復興の役に立ちたい』などと書いてあり、胸を打たれます。産業復興・雇用創出支援では、経営権を持たない出資を実施しています。将来、それらの出資企業から配当を得られた場合、地元金融機関と立ち上げた基金に寄付して、さらなる雇用創出につなげていくつもりです」(中川氏)
財団への拠出を含め、三菱商事は4年で100億円の被災地支援を打ち出した。
「現地のニーズは日々変わっています。それを継続的にすくい取っていくことが大切だと考えています。私たちができることは、まだまだあります」(同)
巨大企業を動かすものは「カネの論理」だけではない。
※SAPIO2013年6月号