東京都西東京市の住宅地にある2000年に設立された障がい者支援施設「社会福祉法人田無の会 たんぽぽ」。ここには20代から70代まで50名ほどの知的障がい者が暮らし、およそ40名の職員がサポートする。この施設で隠蔽された日常的な虐待について、ある調査報告書が作成された。
この施設の職員である井上宏さん(仮名)は、出勤初日から「異様な雰囲気」を感じたと振り返る。
「利用者を『おい、○○』と呼んだり、『ふざけるな!』などの暴言を吐く職員がいて驚きました。水虫薬や目薬をつけてもらえない利用者も多く、医療上のケアが充分にされていなかった。これまで働いた他の施設とは雰囲気がまったく違っていて底知れない不安を感じました」
不安が現実となったのは昨年8月17日のことだった。
「何だてめえ、バカヤロー!」
施設内に怒声が響いた。2階エレベーター横のスペースで横たわる利用者の上に、A職員が馬乗りになって顔面を何発も殴り続けていたのだ。無抵抗の利用者は一発殴られるごとに後頭部を床に打ち付け、ゴツッ、ゴツッという鈍い音が聞こえた。ちょうど昼食時でまわりに何人かの職員がいたが、誰も暴行を止めなかったという。
「後で聞いたところ、最初に利用者がA職員の手を叩いたようですが、障がい者の行為に暴力でお返しするのは、施設職員とはいえません」(井上さん)
ところが、報告書によると、この日夕方の申し送りでA職員の暴力行為は報告されなかった。それどころか、ある職員がA職員の暴行を訴えると、施設幹部は「げんこつで殴っているんじゃないから、いいじゃないか」「悪気があるわけではない」と事実をねじ曲げ、問題にすらしなかったという。
報告書はこのケースを「身体的虐待」と認定し、さらに「暴行に他ならない」と断じた上で、施設の隠蔽姿勢を厳しく批判する。
<法人としては虐待の事実を認定する機会があり、これに対する方策を行なうべきであったにもかかわらず、積極的な対策を怠り、虐待を継続させたものである>(<>内は調査報告書より。以下同)
実際、別の職員は「虐待は継続的、日常的に行われていた」と証言する。
「狙われるのは、障がいのため言葉をあまり発せられないかたがたです。利用者が宝物にしているコインをわざと隠したり、部屋を施錠して入室できなくし、慌てる利用者を笑って眺めるといった陰湿な虐待が横行していました。虐待でストレスを発散しているようでした」
たんぽぽのケースでも昨年11月、東京都に同施設での虐待を告げる公益通報(内部告発)があり、都は施設に対し、第三者委員会を設けて虐待行為を調査することを求めた。
大学教授や弁護士で構成された第三者委員会は施設の職員や利用者家族らの聞き取りを進め、5月下旬に調査報告書をまとめた。
報告書は聞き取りで浮かび上がった職員による42の“不適切行為”のうち14を虐待行為と認定。こうまとめた。 <虐待は小さな出来事を的確にとらえていくことが今後の虐待防止にとって不可欠であり、逆に、小さな出来事を虐待としてとらえず、容認した時点で、障害者の権利侵害が繰り返されることを認識する必要がある>
※女性セブン2013年6月20日号