ブログなどて選挙活動が展開できる「ネット選挙」が、今度の参議院選挙から解禁になる。ネットユーザー待望の制度だが、実際に始まるとどのようなことになるのか。作家で人材コンサルタントの常見陽平氏が予想する。
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参議院選が迫って参りました。今回の話題といえば、なんといってもネット選挙解禁です。プロレスファン的には、アントニオ猪木が立候補というのもありますけどね。
今回はネット選挙解禁について考えてみましょう。ずばり、これは意識高い系議員跳梁跋扈祭りになるのではないかと、私は予測しております。
先日、飯田泰之先生と一緒にやっているニコ生番組「饒舌大陸」で、ネット選挙解禁派で知られる自民党の衆議院議員、平将明氏をゲストに迎え、ネット選挙について語り合いました。大変、勉強になりました。
ネット選挙解禁というのは、自然な流れだなと再確認した次第であります。これまでのルールだと、選挙期間中に「◯◯駅前で演説します。作家の◯◯さんと、スポーツ選手の◯◯さんが応援演説します」なんてことをホームページに載せたりするのはNGだったわけです。さらに言うと、何かデマを流された際にネットを通じて釈明することすらできません。逆にこの何もネットで発言できない状態の方が問題だと言えるでしょう。もっとも、ネット「投票」解禁については、様々な不正対策などの問題から慎重にならざるを得ないですけどね。
まあ、ネットと選挙という意味では、選挙期間中に有識者や庶民が意見を発信したり、議論したり、情報を収集したりということはすでに行われているわけですけどね。
今回のネット選挙解禁ですが、最初なので、プロ野球風に言うと「珍プレー好プレー」が沢山あるでしょう。政治を面白がるのは不謹慎ですが、事件や混乱が起こるのは必至です。
大胆に予言するならば、到来するのは「意識高い系」の政治家による、ザ・セルフブランディングの世界であります。まあ、政治家とはそういうものですが。私が『「意識高い系」という病』(ベスト新書)で紹介したような、残念な痛い人たちがたくさん現れるのではないか、と。次のような政治家が現れることでしょう。
1.毎日、名言、感動話を共有する奴
政治家は、選挙期間中、Twitterやブログでやたらと名言、感動話を連呼するようになるでしょう。いっぱいRTされる、「いいね」を押されることを目指すことでしょう。中には、そのためにゴーストライターやコンサルタントを雇う人すらいるかも。ネット上ではスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式のスピーチのような感動話が、たまに流行るわけですが。
似たようなものですが、若者に熱く語りかける、毎年、年末年始や卒業式、入社式シーズンに現れる「訓示親父」も多数出ること、間違いなしです。
2.「◯◯さんとつながっている俺」アピールをする奴
売れ始めの著名人とか、意識の高い学生(笑)がやりそうな「◯◯さんと仲良くしている俺」アピールをする政治家が沢山出てくるでしょうね。応援にきてくれた党首や著名人とガッチリ握手写真なんかが投稿されることでしょう。
同様に、Twitterで、政治家、著名人がメンションしあうという光景も産まれるでしょうねえ。
3.選挙期間中に感動映像を共有
これもあるでしょうねえ。演説している様子や、夜遅くまで頑張る様子を毎日、撮影して、YouTubeやニコ動に上げる人とか。しかも、それがまた感動映像になっているという・・・。
4.RTじゅうたん爆撃する奴
よく、ビジネス書の著者なんかを中心に自分の書籍やメルマガ、自分が載っている記事のURLなんかを探して、RTしまくる人がいます。その政治家版が多数現れる予感がしますねえ。やりすぎるとあれですが、実際、効果があるのですよねえ。「そんなに評判がいいのか」って思ってしまいますからねえ。
5.かけそば、おにぎりを食べて頑張っていることをアピールする奴
忙しい中、「かけそば1杯、おにぎり1個で頑張っている俺」アピールをする候補者など、ご飯の写真をアップする奴はいっぱい現れそうですね。
安倍晋三首相が総裁選前に、3500円のカツカレーを食べたことが話題になりましたが、質素な食事アピール同様に、ゲン担ぎで美味いもの食べたアピールも出てきそうですなあ。
まだまだありそうですが、このへんで。
ここからやや真面目な話をしますが、ネット選挙解禁によって、政治家の動きをよりよく見ることができるというのは良いことだと思っています。様々な会場での講演がアップされれば、話に一貫性があるかどうか、あるいは様々な立場の人のことを考慮しているかなどがわかりますし。その政治家が、いま、何を考えているのかがわかりますからね。今、述べたような「意識高い系」の言動も、有権者もバカではないので、「この人、演技してる」と見破ることを期待したいです(いや、騙されるかもですが)。
選挙期間だけの演技に騙されちゃいけません。むしろ、ネットの時代なのですから、これで選挙期間も、それ以外の期間も含めて政治家と常時接続している。この方が大事なんじゃないかと思うわけです。選挙以外の期間の方が長いわけですから。
これまでもネット選挙解禁は叫ばれてきたわけですが、いざ解禁してどうなのよということが問われます。1回目なので、そこで劇的に変わるわけではないでしょうけどね。例えば、「若年層の投票がカギ。そのためにもネット選挙だ」「ネット選挙でコストは安くなる」なんてことが言われてきましたが、「本当なのか?」ということが明らかになります(これは普通に考えてそんなわけないのですが)。政治家も有権者も残念であることが可視化されるかもしれません。まあ、それはそれでいいことなんでしょうけど。
というわけで、ネット選挙で何が起こるのか。激しく傍観したいと思いますけどね。あ、もちろん私は投票に行きますけどね、有権者として。
ネット選挙解禁については『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(西田亮介 東洋経済新報社)が参考になりますよ。よろしければ。