夏の参院選は、安倍政権の7か月を評価する選挙になる。メディアは「アベノミクス」ばかりに注目しているが、大前研一氏は、安倍首相がゴールデン・ウィークに行ったトップセールスを高く評価する。以下、大前氏の解説だ。
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安倍首相はロシアに続き中東3か国を歴訪。UAE(アラブ首長国連邦)ではムハンマド首相兼副大統領と会談して日本の原発輸出を可能にするための原子力協定に署名し、トルコではエルドアン首相と会談して原子力協定を締結することや原発建設計画で三菱重工業・仏アレバ連合に優先交渉権を与えることに合意した。原発16基の新設を打ち出しているサウジアラビアでもサルマン皇太子と会談し、原子力協定の締結を検討することで一致した。
このうちトルコでは、韓国企業などと競っていた黒海沿岸のシノプに建設する原発4基について三菱・アレバ連合の受注が事実上確定した。安倍首相は、東京電力・福島第一原発の事故後初めて、原発輸出をトップセールスで決めてきたのである。しかもエルドアン首相は、原子力技術レベルが高い日本が、福島第一原発事故の苦い経験を踏まえてさらに安全になった原子炉をトルコに持ってきてくれると非常にありがたいという趣旨の発言をした。
実際、いま世界の原発は福島第一原発事故の教訓を活かして改良され、BWR(沸騰水型原子炉)もPWR(加圧水型原子炉)も格段に進化している。たとえば、東芝の子会社であるウエスチングハウス製のAP1000という新型PWRは、福島第一原発と同じ「全電源・冷却源喪失」状態に陥っても自力で摂氏135℃くらいまで冷却できる設計になっている。
原発は、アジアだけでも今後20年間に100基くらい増える見通しだ。日本の原発が世界一安全なことをアピールすれば、原発メーカー3社(日立、東芝、三菱重工)がそのうち半分以上を受注することも可能だと思う。原発の建設費は1基5000億円規模だから、50基でも25兆円という巨大な輸出産業になる。
※SAPIO2013年7月号