アベノミクスに異変が起きている。3本目の矢の成長戦略に対しても株式市場は失望売りとなった。その異変とは何か。元経産官僚の古賀茂明氏が検証する。
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私はアベノミクス「第一の矢」である金融緩和についてはある程度やるべきだと考えていたが、そのあとの「第二の矢」「第三の矢」を見て完全に失望しました。
「第二の矢」である財政出動、つまり国土強靱化という名のバラマキは、矢を放つ方向を完全に間違えた。本来はこれから成長が予想される分野、たとえば医療や介護に労働力を移動しなければならないのに、せっかく20年近くかけて減らしたはずの建設業界の人員を、公共工事のバブルでもう一度増やそうとしています。
このバブルが数年続いた後に、公共事業予算の削減をしたらどうなるでしょう。そこには再びリストラ必至の建設不況が待っています。復興を進めていた被災地もその不況に巻き込まれてしまいます。
「第三の矢」である成長戦略にいたっては、的が外れている上に、的まで届いてもいません。成長戦略の目玉は薬のネット販売ですが、実際には最高裁が「薬のネット販売禁止は違法」としたことですでに解禁されているものに、規制を加える政策です。いかにも規制緩和のようにPRされていますが、実態は全くそんなものではない。
その一方、農業ならコメの減反政策をやめましょうとか、農協に独占禁止法を適用しましょうとか、医療なら混合診療の保険適用や株式会社の病院経営を認めましょうとか、そうした「本当の規制改革」は、はじめから俎上に上がってもいません。
なぜこうなったのか。今回の安倍政権は、小泉政権の構造改革を引き継いだ前回とは違い、総裁選では派閥の長老たちに担がれた時点で旧来の自民党を背負って立つ存在としてスタートしました。続く衆院選では地元にバラマキを約束することで勝利し、いまは参院選に勝つために農協や医師会などの支持母体に恩を売らなければならない。だから「本当の規制改革」はできないんです。
では「参院選が終わるまではおとなしく」ということで、そのあとは改革に舵を切るのか。いえ、そのあとに始まるのは、参院選を応援してくれた支持母体に対する「恩返しの政治」です。来年の消費増税に備えてさらなるバラマキが始まるでしょう。
つまり、いつまでも改革など始まることはない。安倍さんは改革の「気分」だけを演出し、国民もそれに騙されてしまっている。いま最大の問題点はここにあります。
しかし、すでにアベノミクスに対して、海外の投資家たちは「三の矢」がいつ出るのかと疑心暗鬼になりつつあります。このままいつまでも矢が放たれなければどうなるのか。外圧によって仕方なく出さざるを得なくなるのか、それでも出すことなく自滅するのか。
いずれにせよ、まずは国民が騙されていることに気づくべきでしょう。
※週刊ポスト2013年6月21日号