国内

古賀茂明氏 安倍氏の最大の問題は改革の“気分”だけを演出

 アベノミクスに異変が起きている。3本目の矢の成長戦略に対しても株式市場は失望売りとなった。その異変とは何か。元経産官僚の古賀茂明氏が検証する。

 * * *
 私はアベノミクス「第一の矢」である金融緩和についてはある程度やるべきだと考えていたが、そのあとの「第二の矢」「第三の矢」を見て完全に失望しました。

「第二の矢」である財政出動、つまり国土強靱化という名のバラマキは、矢を放つ方向を完全に間違えた。本来はこれから成長が予想される分野、たとえば医療や介護に労働力を移動しなければならないのに、せっかく20年近くかけて減らしたはずの建設業界の人員を、公共工事のバブルでもう一度増やそうとしています。

 このバブルが数年続いた後に、公共事業予算の削減をしたらどうなるでしょう。そこには再びリストラ必至の建設不況が待っています。復興を進めていた被災地もその不況に巻き込まれてしまいます。

「第三の矢」である成長戦略にいたっては、的が外れている上に、的まで届いてもいません。成長戦略の目玉は薬のネット販売ですが、実際には最高裁が「薬のネット販売禁止は違法」としたことですでに解禁されているものに、規制を加える政策です。いかにも規制緩和のようにPRされていますが、実態は全くそんなものではない。

 その一方、農業ならコメの減反政策をやめましょうとか、農協に独占禁止法を適用しましょうとか、医療なら混合診療の保険適用や株式会社の病院経営を認めましょうとか、そうした「本当の規制改革」は、はじめから俎上に上がってもいません。

 なぜこうなったのか。今回の安倍政権は、小泉政権の構造改革を引き継いだ前回とは違い、総裁選では派閥の長老たちに担がれた時点で旧来の自民党を背負って立つ存在としてスタートしました。続く衆院選では地元にバラマキを約束することで勝利し、いまは参院選に勝つために農協や医師会などの支持母体に恩を売らなければならない。だから「本当の規制改革」はできないんです。

 では「参院選が終わるまではおとなしく」ということで、そのあとは改革に舵を切るのか。いえ、そのあとに始まるのは、参院選を応援してくれた支持母体に対する「恩返しの政治」です。来年の消費増税に備えてさらなるバラマキが始まるでしょう。

 つまり、いつまでも改革など始まることはない。安倍さんは改革の「気分」だけを演出し、国民もそれに騙されてしまっている。いま最大の問題点はここにあります。

 しかし、すでにアベノミクスに対して、海外の投資家たちは「三の矢」がいつ出るのかと疑心暗鬼になりつつあります。このままいつまでも矢が放たれなければどうなるのか。外圧によって仕方なく出さざるを得なくなるのか、それでも出すことなく自滅するのか。
 いずれにせよ、まずは国民が騙されていることに気づくべきでしょう。

※週刊ポスト2013年6月21日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
“鉄ヲタ”で知られる藤井
《関西将棋会館が高槻市に移転》藤井聡太七冠、JR高槻駅“きた西口”の新愛称お披露目式典に登場 駅長帽姿でにっこり、にじみ出る“鉄道愛”
女性セブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン