楽天やユニクロを展開するファーストリテイリングが、社内公用語を英語と定めたとき、大きな話題となった。そして今度は、政府もキャリア官僚の採用試験にTOEFL(Test of English as a Foreign Language:トーフル)を導入する方針を固めたと言われている。英語力をはかる試験としては、もうひとつTOEIC(Test of English for International Communication:トーイック)がある。この二つの違いについて、大前研一氏が解説する。
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日本企業のグローバル化の進展に伴い、社員に高い英語力が求められるようになってきている。そんな中で、政府もキャリア官僚の採用試験に、2015年度(2016年度入省)からTOEFLなどの英語力試験を導入する方針を固めた、と報じられた。
産業競争力会議で楽天の三木谷浩史会長兼社長らが「多くの企業が採用試験でTOEFLなどの点数を提出させている」と発言したのを受けたもので、かつての国家公務員採用1種にあたる「総合職」の採用試験に導入するという。
ビジネスマンにとっての英語力の重要性については、本連載でもたびたび取り上げてきた。楽天やファーストリテイリングなど英語を社内公用語とする企業や、英語を採用や昇進の条件にしている企業は少なくない。だからキャリア官僚にも、という発想自体は間違っていない。が、三木谷さんの発言の影響力は大きい。それゆえに、この提言をもう一度吟味する必要がある。
まず問題は「なぜTOEFLなのか」ということだ。TOEFLは、主に北米の大学や大学院に留学する際、英語力が授業を受けられる水準にあるかどうかを測るための試験で、自民党の教育再生実行本部は大学の受験資格として導入することを安倍晋三首相に提言している。
しかし日本では、英語力試験としては留学向けのTOEFLよりも、主にビジネス向けのTOEICのほうが一般的だ。三木谷さんは自分が日本興業銀行時代にハーバード大学経営大学院でMBAを取得しているからTOEFLといったのかもしれないが、その一方で楽天自体はTOEICを判断基準にしている。
TOEFLとTOEICは、どちらも同じアメリカの英語力試験だが、かなり大きな違いがある。TOEFLは英語力だけでなく、英語を使って論理思考ができるかどうかを見るための試験である。かたやTOEICはリスニングとリーディングで英語によるコミュニケーション能力を判定するための試験だ。
つまり、そもそも目的が異なり、そこで試されるもの(=準備しなければならないもの)も自ずと異なるわけで、「英語で考える力」が求められるTOEFLは、日本人は非常に苦手にしているし、アメリカ人でも良い成績を取れる人は少ない。
三木谷さんがそこまで理解してTOEFLといったのかどうかはわからないが、私はTOEFLだけでなく、TOEICや日本の英検(実用英語技能検定)も含めてフレキシブルに英語力を判断すべきだと思う。
※週刊ポスト2013年6月21日号