六本木ヒルズが10周年を迎えた4月25日、レセプションパーティの壇上に立った森ビル・辻慎吾社長は、こう挨拶した。「都市の主役は人であるということを改めて実感した10年間でありました」──。
確かに六本木ヒルズの10年を振り返れば良くも悪くも、「人」が主役だった。その象徴たる人物が旧ライブドア元社長、ホリエモンこと堀江貴文氏が、ヒルズとの10年を振り返った。
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六本木に住んだのはたまたまっすよ。別にこの街に憧れがあったわけではない。
オン・ザ・エッヂ時代に最初に入居した雑居ビル(港区六本木三丁目)も、創業メンバーの家族に紹介された大家さんが、倉庫代わりに使っていた7畳ぐらいの部屋を保証金なしで貸してくれるっていうから決めただけ。その頃は、忙しくて遊ぶ時間がなく、毎晩深夜3時まで働いて、叙々苑で焼き肉食べて、ゲーセンに寄って会社で寝る生活を繰り返すだけでした。だから六本木に思い入れなんてないんです。
六本木ヒルズのオープンと同時に、ライブドアの本社を移転したのも、それまでのオフィスが手狭になったという理由しかない。上場企業の経営者が憧れや見栄でオフィスを選ぶわけないじゃないですか。
──しかし、六本木ヒルズの磁場に吸い寄せられるように、ライブドアと共に楽天やヤフーといったIT企業、さらにはゴールドマン・サックスといった外資系証券会社も入居。2005年以降に起こったフジテレビ・TBSなどテレビ局買収戦争では彼ら「ヒルズ族」が主役となる。彼らが共謀しているかのように報じたメディアもあった。
企業同士が申し合わせて本社を移転してきたわけではないので、騒動の間も裏で結託するようなことはなかったです。
「ヒルズ族」と呼ばれたことに関しては、別に悪い気もしなかったですよ。仲間内で「俺らヒルズ族って呼ばれているらしいよ」と冗談を言い合うぐらい。よく「(オフィスタワーの51階にある)六本木ヒルズクラブでパーティしていたんですか?」とか「(レジデンス内で)合コンしていたんですか?」とも聞かれるんです。
だけど僕はヒルズクラブのパーティに参加したことがないし、同じマンションの住人と合コンもしたことがない(笑)。それは世間が勝手に抱いた僕のイメージでしょう。
──2006年1月に堀江氏は証券取引法違反容疑で逮捕され、後にライブドアショックと称された。2011年6月に都心を見下ろす広大なレジデンスタワーの住まいから、狭い東京拘置所(後に長野刑務所)の塀の中へ。まさしく天国から地獄だった。
刑務所に入って一番つらいのは友達と連絡をとれないこと。部屋が狭いとか布団がくさいとか、そんなことって実はどうでもいいんですよ。そもそも僕自身もヒルズの広い部屋に住みたくて住んでいたわけじゃない。じゃあなぜ住んでいたかというと、職場に近いから。掃除は自分じゃできないからダスキンさんにお願いしなきゃいけないし、余計なコストばかりかかるんですから。
ただ、1980年代から計画されてきた建物だけあって、インテグレーションは見事だと思います。たとえば、僕が住んでいた部屋からは東京タワーが見えたんですけど、その角度が計算し尽くされていて絶妙なんです。東京タワーをはじめ東京の町並みを借景に使って、六本木ヒルズという建物のブランド価値を高めている。
ヒルズに匹敵するような商業施設は、世界を見ても、シンガポールのマリーナベイ地区ぐらいかなあ。10年経ったけどブラッシュアップされている印象があります。
■堀江貴文(ほりえ・たかふみ)1972年生まれ。ライブドア元代表取締役。2006年証券取引法違反容疑で逮捕、2011年収監、今年3月仮釈放される。
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2013年6月21日号