世界の富裕層調査で知られる「ワールド・ウェルス・レポート」によれば、投資可能資産が1億円を超える日本人の“ミリオネア”は、2011年時点で約182万人。長らく不況だった割には、金持ち人口では米国に次ぐ世界第2位を誇っている。
さらに、アベノミクス効果も追い風に、その人口はますます増加傾向にあるという。近著に『図解 富裕層ビジネス最前線』(中経出版)がある船井総合研究所の経営コンサルタント、小林昇太郎氏が話す。
「ミリオネアよりもリッチな金融資産10億円以上の“ビリオネア”は、約3万2000人います(2012年)。このクラスともなると、マンションを何棟も所有するオーナーとか、優良企業の創業者一族、開業医など限られた層で占められますが、今年に入ってから特定の職業でなくても、株の売却益などを手にして一気にビリオネアの仲間入りをする人も増えています」
そんな大金持ちの可処分所得を狙って、富裕層ビジネスは活況を呈している。宝飾品、高級レストラン、クルーズ旅行、億ション、はたまた宇宙旅行まで。とにかく高価格な商品やサービスのラインアップを揃える動きが目立つ。
ところが、前出の小林氏は「お金持ちが常に高いモノを買ってくれると思ったら大間違い」と指摘する。
「ひたすら単価の高い商品やサービスを並べるだけでは見向きもされません。富裕層の関心事は資産、教育、健康・アンチエイジング、セキュリティー、環境など非常に幅広い。一人ひとりの興味やテーマに合わせて付加価値をつけた売り方の提案ができるかどうかが今後の課題です。場合によっては、いろんな企業が連携して富裕層が集まるコミュニティや街自体を築くビジネス手法も考えなければなりません」
そう言って小林氏が例に挙げたのが、シンガポールとマレーシアの国境付近(ジョホールバル)で進められている大規模都市開発の「イスカンダル計画」。先端技術の研究・開発拠点をはじめ、一流の教育機関や病院、テーマパーク、金融などに特化した、いわば“富裕層タウン”を築こうというものだ。
すでに、アジア初となるレゴブロックのテーマパーク「レゴランド」がオープンしたり、英キャサリン妃の母校として名高い「マルボロカレッジ」の分校が開校したりと、早くも世界中の観光客や富裕層で賑わっているという。
もちろん、日本企業も自国の金持ちばかり相手にしていられないとばかりに、イスカンダル計画に参入している。
「2009年にイオンが東京ドーム約3個分の大型ショッピングセンターをオープンしたのを皮切りに、昨年はサンリオの『ハロー・キティ・タウン』もできました。その他、三井物産が150億円を投じて同地区でスマートシティ(環境配慮都市)の開発事業に参画することを表明しています。
計画を主導するマレーシアとしては、富裕層ビジネスの最先端国であるシンガポールのブランドを利用しながら、お金持ちの個人資産のみならず外資系企業などの投資を呼び込んで経済発展を実現させたい構えです」(小林氏)
こうした“イスカンダル・モデル”を真似た都市開発は、韓国・ソウル市の麻谷(マゴック)地区でも行われており、日本企業の進出や投資を熱望しているという。
「もはや富裕層ビジネスは中国、香港、インド、インドネシアといった周辺国までターゲットにしたアジア全体の富裕層マネーをどれだけ囲い込めるかが成否を分ける時代。安倍政権もカジノ構想など経済特区に前向きですが、国境を超えた連携も含めて戦略的な都市開発に着手できなければ、ますます他国に主導権を握られて、せっかく潤い始めた個人資産の海外逃避も進んでしまうでしょう」(小林氏)
消費税増税のほか、相続税、所得税の最高税率の引き上げも決まっている日本。ただでさえ金持ちに厳しい国で、どこまで富裕層の消費意欲を掻き立てるビジネスができるのだろうか。