参院選後に危惧されるのが自民党の利権誘導政治の復活である。早くも「政・官・財」ががっちりと握り合い、参院選に向けてゼネコンから「票とカネ」が流れ込んでいる。その後に来るのは見返りとなる無駄な公共事業の大盤振る舞いだ。
自民党の二階俊博・総務会長代行の地元・和歌山が建設バブルに沸いている。
「自民党が政権に復帰して道路建設の予算が戻ってきた。本体の建設事業だけではない。トンネルを掘れば残土処分場が必要になり、道路が延びれば地元で観光活性化などのためのハコモノが建てられる。数年ぶりに業界にとっていい循環が生まれている」
県内のゼネコン関係者はこう息巻く。
活況をもたらしたのは、大阪府松原市から紀伊半島沿岸をぐるっと一周して三重県の多気町に至る全長336㎞の長大な「近畿自動車道紀勢線」の建設計画だ。国道42号線に並行して走る高速道路は現在、和歌山側と三重側でそれぞれ工事が進んでいて、自民党の政権復帰とともにピッチが上がっている。
和歌山側の着工区間(田辺~すさみ間、全体事業費約1968億円)の事業費は2012年度当初予算では232億円だったところ、安倍政権発足後の補正予算でさらに89億円が計上された。2013年度も278億円の予算が組まれ、前年度実績を着実に上回る。
「2015年開催の国体に向けて、地元のゼネコンが道路建設と並行して自治体に地域活性化案を出している。コミュニティセンターの開設、観光客が釣った魚が味わえる道の駅の開設、アウトレットモールなど、いずれも土建業界が潤う話ばかり」(同前)
それら業界から“メシア”と称えられているのが地元選出の実力者である二階氏だ。野党時代から党の「国土強靱化総合調査会」の会長として紀伊半島一周高速道路のミッシングリンク(未整備区間)の開通を訴えてきた。それが政権復帰で実現へ向けて動き始めたのである。
この高速道路は本当に必要な事業と言えるのか。国交省は整備効果の一つとして「和歌山市へのアクセス性の向上」を挙げる。同省の資料によると「紀伊半島最南端の串本町から和歌山市まで約3時間かかるところを35分ほど短縮できる」という。これに約2000億円の事業費を注ぎ込むわけだ。これまで全国に高速道路を作りまくって、「事前予測の数分の一しか車が通らない」という結果になった道路が多かったことは見て見ぬふりされている。
有力政治家の地元の道路建設に莫大な予算がつき、潤った建設会社が票とカネを政治家に貢ぎ、役人たちは予算を梃子に天下り権益を拡大させていくまさに古き悪しき構図だ。
もっと露骨な地元への利益誘導もある。
「紀勢線の工事は和歌山の西側から進んでいる。二階さんの選挙区(和歌山3区)は県の東側で本来は最後に着工されるはず。ですが、その選挙区内にあたる新宮市と那智勝浦町を結ぶ区間を他に先んじて着工しているのです。この区間の那智勝浦道路は“二階バイパス”と呼ばれ、現在は紀勢線と別事業ですが、将来はその一部となる方向だ。選挙区内で先に工事を始めるために別事業としたのではないか」(地元地方議員)
1998年に一部区間の工事が始まった“二階バイパス”は総事業費1240億円。2009年の総選挙で「コンクリートから人へ」を掲げた民主党が政権交代を果たすと予算が削られ、11年度予算では11億円にまで圧縮された。
それが安倍政権下の補正予算では31億円が計上され、当初予算と合わせると実に78億円。自民党の政権復帰で7倍以上に膨れ上がった。この区間は高架とトンネルが多く、1mあたり800万円という首都圏の高速道路並み(1000万円/m)の高い建設コストがかかり、業者にとってのうまみも大きい。
※SAPIO2013年7月号