日本企業のグローバル化の進展に伴い、社員に高い英語力が求められる時代である。では、英語を自由に操れればビジネスはうまくいくのかというと、そうでもないという。なぜ、そういったことが起こるのか、大前研一氏が解説する。
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ビジネスや対外交渉の現場で相手に自分の意思を正しく伝え、狙い通りの反応を得たい時、単に英語がうまくなれば通用するのかというと、そうは問屋が卸さない。
たとえば、M&Aで海外の企業を買収する交渉、あるいは現地の工場を一つ閉鎖してこなければならないといった仕事の場合、「TOEIC的な英語力」と「和文英訳・英文和訳」に熟達しているだけでは不可能だ。
そもそも英語と日本語では、発想や表現など何もかもが違うし、そういう仕事の現場では相手の気持ちを動かさなければ目的を達成できない。そのためには、自分の気持ちの微妙なニュアンスまで正確に伝える能力、言い換えればEQ(心の知能指数)を英語で表現できる能力が必要なのだ。
これはもちろん日本語でも難しいし、なまじっか英語ができて中途半端に海外で成功し、国際派として鳴らしている人ほど難しいものだ。実際、外国企業との交渉で失敗する人は英語がうまい人が多い。つまり、うまい程度では足りないのである。アメリカやイギリス、オーストラリアなど英語を母国語とする国でも、この第3の能力に秀でた人は稀である。
この3番目の問題を認識して対策を講じないまま、単にTOEFLやTOEICを採用試験や大学受験に導入しても、対外交渉で“撃沈”する役人を量産するだけである。真のグローバル人材育成には、もう少しEQの研究をしてから提言をまとめてもらいたいと思う。
※週刊ポスト2013年6月21日号