「一姫二太郎がいいね」「いや、健康ならどちらでもいいじゃないか」などと、妊娠した夫婦を前に口にすることは、もはやタブーとなりつつある。
『週刊ポスト(6月14日号)』に掲載した、「ビッグダディ」こと林下清志さんのインタビュー「コンドームを付けない哲学」(聞き手・吉田豪氏)は、大反響を呼んだ。意外だったのは、彼が語った「男女の産み分け法」に、女性から問い合わせが相次いだことだった。
「元嫁のときは最初の4人まで完璧です。自分の思ったとおりに、女、男、男、男っていうふうに産み分けて。ただ、そのあと(5人目以降)はどうでもよくなりましたけど」
と断言する彼の言葉に、「彼のいってることは本当なのか」「もっと具体的に知りたい」などなど、女性読者からの問い合わせが止まらず、編集部も面食らったのだ。
実は現在、体外受精させた受精卵を子宮に戻す前に調べる「着床前診断」で性別を判定し、希望する性の受精卵を戻すことで、医療技術的には、男女産み分けが可能になっている。
しかし日本では「命の選別にあたる」とする倫理的な理由から、原則的に認められていない。そこで、どうしても性別を決めて産みたい夫婦が最後にすがるのがタイの医療機関である。
タイでも医師会の指針では認められていないが、罰則がなく、小規模な医療施設で行なわれている。費用は渡航費を含め約150万円。男女産み分けを利用する日本人夫婦は年間100組以上に上るという。
意外なことに、タイで着床前診断を利用した日本人夫婦の9割以上が女の子を希望。多くの夫婦がすでに男の子がおり、次は必ず女の子、との願いを実現するためにタイを訪れたという。女の子ばかり生まれるケースも同じ確率で起きるはずで、「跡取り息子を」という需要もあるはずだが、実際には「女の子が欲しい」ケースばかりなのである。
「男の子は成人すると実家に寄りつかなくなりますが、女の子は結婚後も出産などで頻繁に実家に顔を出すので、老夫婦の寂しさを紛らわせてくれる。だから女の子を欲しがる親が増えているんです」(出産事情に詳しいフリーライターの樋田敦子氏)
もちろん、歌舞伎俳優・市川海老蔵の妻、麻央さんが長女に続く第2子を妊娠するにあたり、産み分けを研究していたように(今年、長男を出産)、伝統的な家系では「跡取り息子」が重視されることに変わりないが、世の大勢は変わった。いまや産み分けの主流は「女の子を産みたい」なのである。
※週刊ポスト2013年6月21日号