橋下徹大阪市長の慰安婦発言や、猪瀬直樹東京都知事の五輪招致を巡る発言など、地方自治体の首長の発言が、国際社会から批判される事態が相次いでいる。作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏は、「首長の是非以前に、国際社会の感覚が理解できていないから失言が続く」と分析。猪瀬発言の影響をこのように解説する。
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2020年の夏季五輪(オリンピック)招致に関して、〈猪瀬直樹・東京都知事が米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで他の立候補都市と東京を比較し、「イスラム諸国は互いにけんかばかりしている」と述べた。イスタンブール(トルコ)を意識した発言で、27日付同紙が伝えた〉(4月29日、朝日新聞デジタル)。他にも「イスラム諸国が共有しているのはアラー(神)だけ。そして、階級がある」と語ったと報じられた。
当初、猪瀬氏は、「私の真意が正しく伝わっていない」と開き直っていたが、ニューヨーク・タイムズ側から「取材に絶対の自信を持っている。録音もある」と反論され、謝罪に転じた。
トルコを公式訪問した安倍晋三首相は、5月3日にエルドアン・トルコ首相と会談した際、謝罪せざるを得なくなった。〈(安倍首相は)東京都の猪瀬直樹知事がイスラム諸国を批判した発言について「トルコ側は不快に感じたのではないか」と述べ、陳謝した〉(5月3日、朝日新聞デジタル)。東京都知事の不祥事に日本国内閣総理大臣が対応するのは、前代未聞の事態である。
猪瀬氏は、実態はともかく、国際基準では知識人と見なされる。政治家の失言は無知による場合と偏見による場合に分かれるが、知識人である猪瀬氏の発言は客観的に見てイスラームに対する偏見に基づくものだ。イスラームを侮辱する猪瀬氏の発言はネットによって国際的に拡散している。
ツイッターを表現の場として最大限に活用している猪瀬氏は、ネットの力を熟知しているはずだ。猪瀬氏は自らの発言がイスラーム過激派に与える影響について、十分に自覚しているとは言えない。あえて言うが、猪瀬発言が今後、東京でテロを誘発する可能性すら排除されない。今後も猪瀬氏の偏見、もしくは中途半端な知識に基づく思いつきで、日本国益が毀損される事態が起きると筆者は危惧している。
※SAPIO2013年7月号