指原莉乃(20才)が1位となり盛り上がりを見せた第5回AKB48選抜総選挙。毎回、メンバーのスピーチも話題になるが、今回の総選挙で目立ったのは惜しくも2位となった大島優子(24才)のスピーチだ。「涙のひとつも出てこない、この感覚」との言葉から始め「(指原は)私の壁をするっとぬけていった」「(指原センターで)どんなコミカルグループになるのか」と次々と繰り出す巧みな表現で、会場を笑いに包んだ。テリー伊藤も「芸能人としての“身体能力”は抜群」と絶賛したほど。大島のスピーチ力を、スピーチトレーナーで大阪工業大学客員教授の高津和彦さんが分析した。
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自分が予期していなかった結果が出たときに、その事実をどうとらえてどう表現するのかというのはたいへん難しく、スピーチ力が問われる場面です。
大島さんは、“涙のひとつも出てこない、この感覚”という第一声でファンの心をとらえましたよね。一般的には皮肉になるような内容ですが、1位になった指原さんが“いじられキャラ”ということから見事な“つかみ”になっています。
今回のように、勝負に敗れた場合、負けた人のスピーチは大きくふたつに分けられます。ひとつは素直に結果を認めて“おめでとう”と勝者を祝福する。もうひとつは祝福はせずに“おかしい”“納得できない”と、その結果に反発するケースです。
2位になった大島さんのケースはどうでしょうか。先ほどあげた“涙のひとつも出てこない”というコメントや“おなか抱えて笑ってしまう”というのは、後者のケースと言えます。指原さんに“おめでとう”とはひと言も言っていません。そして、反発の気持ちを最初から最後まで、嫌みに聞こえないように笑顔のまま表現し続けているところが、絶妙です。しかも、笑いをとりながら、というのはなかなかできることではありません。
スピーチをするときにもっとも重要な落ち着きというポイントも、彼女にはありました。“壁をするっと抜けていった”というのは、準備して出てきたコメントではないでしょうから、表現力の巧みさや彼女の頭の回転の速さを感じられます。これはそもそも心が落ち着いていないと出てこない言葉です。しかも、コメントとコメントの間にしっかりと“間”を置いて話しているので、聞いているほうも聞きやすく、その結果笑いも起こった。
自信をもって話すということもスピーチではすごく大事です。彼女は自分の結果について“偉業”という言葉を使っています。2回目は言い直したわけですが、負けた人がなかなか自分に対して偉業とは言えません。普通は“自分はよくやったと思う”“一生懸命がんばった”というありきたりの表現になってしまいますが、それを“偉業”というピンポイントの漢語をもって言い切ったのは、自分に自信があるからでしょう。
勝者を祝福するスピーチに比べて、反発の気持ちを表現するスピーチは、なかなか難しいものです。ウソであっても、“よくやった”“おめでとう”という言葉で勝者を讃えがちですが、彼女は終始、落ち着いて、しかも指原さんのキャラクターを生かして笑いも取りながら、反発の気持ちを最後まで表現し切り、会場の注目を一気に集めた。まさに100点のスピーチをしたと言えるでしょう。