蒸気でもって急速に入れる濃厚なコーヒー・エスプレッソは、イタリアから世界に広がった。だが、日本で爆発的に広がったのは、90年代後半、スターバックスの上陸によってだろう。そのエスプレッソ人気が、最近、さらに高まっているようだ。家庭用エスプレッソマシンの売れ行きは絶好調。一方、スタバなどのいわゆるシアトル系とは一線を画す、エスプレッソ専門店も増えつつある。
昨年の家電市場は、前年比11%減の7兆4800億円の見込みだ(ジーエフケー・マーケティングサービスジャパン)。2011年の、エコポイント制度やデジタルへの切り替え特需の反動を受けたことがその要因とされている。そんな苦境のなか、コーヒーメーカー市場の好調ぶりが目を引く。数量は前年比8%増の179万台。なかでもエスプレッソマシンは数量前年比29%増と伸長している。
いまエスプレッソマシンは、利用者の“エスプレッソ・ライフ”に応じて、様々なタイプが登場している。エスプレッソパウダーを自分で好みの量だけセットする本格的な“パウダー式”と、パックをセットするだけの、手軽で後始末がラクな“カフェポッド式”。また、エスプレッソだけを淹れる単機能マシンもあれば、カプチーノやレギュラーコーヒーも楽しめるハイブリッドマシンも。ネスプレッソなど海外ブランドのマシンもあれば、パナソニックなど国産マシンもある。価格帯も、1万円を切るものから数十万円する本格派まで、多岐にわたる。
「家電量販店のエスプレッソマシン売り場面積は広がっています。飲食店で飲む機会も含め、エスプレッソが広がっているのは確かです」
こう語るのは、フードアナリストの白根智彦氏だ。「最近は、コンビニもカフェサービスに進出し、エスプレッソを目にする機会が増えています。マシンの価格も手ごろなものが出ているので、家でも作ってみようと、気軽に購入する人が増えているのではないでしょうか」。メーカーにとってみれば、マシンは売って終わりではなく、パックなどの“中身”でも儲ける。「トナーを売り続けるコピー機のような商売」(白根氏)でもあるのだ。
だが、こうしたエスプレッソブームには、“日本風”の側面があると白根氏は指摘する。
「ヨーロッパなどで飲まれている、いわゆるデミタスカップで飲むエスプレッソを飲んでいる人は、それほど多くないと思います。日本では特に女性に、ミルクを入れたカプチーノやカフェラテが人気ですよね。エスプレッソといっても、ちょっと味の濃いコーヒーを、好みにアレンジして飲む、という感覚が強いのではないでしょうか。もちろん、それぞれ、好きに楽しむのが一番ですが」
そんななか、本場のエスプレッソを提供する店も増え始めた。高島屋グループのアール・ティー・コーポレーションは、イタリアのトリエステをコンセプトにしたエスプレッソ・バールを展開する。現在は全国に4店舗だが、「今後、店舗数を拡大していく予定」(担当者)。シアトル系とはまた違った、エスプレッソの本場・イタリアの味を広めたいと意気込む。
最近は、コメダ珈琲の躍進に見られるように、喫茶店の復権も著しい。家庭で楽しむエスプレッソの広がりで、日本のコーヒー文化はさらに多様化しそうだ。