参院選には「魔」が潜むといわれる。公示期間は衆院選よりも長い17日間で、期間中に情勢が一変することから「魔の17日間」と呼ばれてきた。高い支持率の安倍政権にしても、不安要因はある。
仮にこのままの勢いで選挙を乗り切ったにせよ、その先にはさらなる困難が待ち受けている。選挙予測の第一人者であるジャーナリスト・野上忠興氏の協力のもと、全選挙区の最新情勢と選挙後の安倍首相の苦悩をリポートする。
* * *
121の改選議席を争う戦いで自民・公明は「63議席」を確保すれば、非改選と合わせて過半数に達する。最新情勢をもとに獲得議席を予測すると自民63、公明10となりねじれは解消される見込みとなる。
ただ、これはあくまで現時点での予測だ。70%近い内閣支持率の維持が前提となる。 与党幹部は不安を隠さない。
「橋本龍太郎政権の1998年参院選では公示後まで自民優勢という調査結果だったのに、財政再建をめぐって総理の発言がブレたことが批判され、風向きが一気に変わった。結果は44議席という歴史的大敗。参院選はこれがあるから怖い」
安倍政権の高支持率の背景にあるのは円安・株高だ。だが、5月末の株価急落に続くさらなる調整局面になれば、賃金が上がるなどの実益を享受していない有権者は「アベノミクスもここまで。いいことは何もなかった」と夢から覚める可能性が高く、与党内ではそれを危惧する声が強い。
「怖いのはアメリカ。オバマ政権が『行き過ぎた円安』に警鐘を鳴らせばすぐに日本の株価は下がる。自民の勝ちすぎによる日本の右傾化を警戒し、時期を見て円安是正を求めてくるのではないか」(前出の与党幹部)
日経平均が1143円安という急落を記録した5月23日の直後に行なわれた日経新聞の世論調査では、内閣支持率は68%と4月の調査から8ポイントも下落。まだ高水準とはいえ、政権の求心力が株価頼みであることを露呈した。
永田町では安倍氏が衆参ダブル選挙に踏み切るという観測も流れたが、その場合は選挙が少し先に延びるため、「株高が維持できない可能性が高くなる」(安倍側近)と、周囲はダブル選回避に傾いている。
ただ、自公惨敗のシナリオもまた現実的ではない。1998年参院選では複数人区で自民党候補が共倒れしたのに対し、今回は「原則一人擁立」の方針でリスクを抑えている。
加えて敵失もある。日本維新の会は共同代表の橋下徹・大阪市長の「慰安婦問題」発言などで失速。野党共闘も幻に終わった。民主党は維新の失速で少し持ち直したものの、予測では現有議席から20以上減らす大惨敗。自民党が仕掛けた憲法改正論議にまんまとはまって党内の路線対立が明白となり、分裂・消滅に向けて貯め込んだ政党助成金をめぐる争いが勃発しそうだ。
こうした野党の状況を踏まえると、自公過半数は堅いと見ていい。安倍政権は6年ぶりに衆参過半数を握るだろう。
※SAPIO2013年7月号