スポーツ

山田久志が江夏豊絶賛「アイツこそ野球のディクショナリー」

 スポーツライターの永谷脩氏が往年の名野球選手のエピソードを紹介するこのコーナー。今回は、阪神のエースとして王・長嶋と幾多の名勝負を繰り広げ、その後ストッパーに転向して“優勝請負人”と呼ばれた不世出の投手・江夏豊氏のエピソードを紹介しよう。

 * * *
 野球の知識では右に出る者がいないといわれた山田久志をして、「アイツこそ野球のディクショナリー(辞書)」といわしめたのが江夏豊だ。特にリリーフに転向してからの投球術は、大向こうを唸らせるものだった。

 ただ知識が豊富なだけに、自分よりも賢い者にはコロリと参ってしまう部分があった。1人は野村克也。阪神にこだわっていた江夏が南海に移籍したのも、江夏の登板を見ていた南海監督・野村の一言がきっかけだ。

「走者満塁・カウント2-3から、ボール球で三振を取った場面。あの球はわざとやろ」

 この言葉で「わかっている人だ」となり、江夏は野村に傾倒。リリーフ転向も受け入れたのだ。

 もう1人は広岡達朗である。日本ハム時代の1982年、連覇をかけ臨んだプレーオフ(※)でのこと。いかに江夏を打ち崩すか対策を練った広岡監督が注目したのは、江夏の「腹」だった。突き出た腹のせいでフィールディングが悪いと読んだ広岡以下首脳陣が、徹底したプッシュバントでの揺さぶりを指示。息が上がった江夏を打ち崩したのだ。

 日頃「腹の横に肉がつけば贅肉で、縦につけば貫禄」などと屁理屈を言っていた江夏も、この時は広岡に感服。「俺をあそこまで苦しめた広岡野球を肌で感じたい」と語り、これが1年後の西武移籍への布石となった。だが結果的に、江夏の現役生活はこの西武で終わる。

 江夏は今でも、私に「お前のお陰で野球人生が縮まった」と言うことがある。西武に入団した1984年の開幕前、“広岡管理野球はうるさいから、チーム自主トレには参加した方がいい”と、私が共通の知人らと一緒になって無理に勧めたのだ。

 しかし行った日がたまたま雪で、江夏は室内練習場の坂で滑って転げ落ち、帰りには車がスリップ事故。1日で2回も“事故”を起こした。この縁起の悪さが尾を引いたか、監督との確執から二軍落ちして1年で退団・引退。通算200セーブまであと7つだった。西武からの任意引退の勧めを断わり、自由契約の身で引退したのは彼なりの意地だった。

【※注】当時のパ・リーグは前後期制。西武が前期優勝で、日本ハムは後期優勝だった。

※週刊ポスト2013年6月21日号

関連記事

トピックス

山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン