中国で発生し感染が拡大した新型鳥インフルエンザH7N9、中東で猛威を振るう新型コロナウイルス……。世界では新たな感染症が日々生まれ、人類を脅かし続けている。日本人にとっても対岸の火事ではない。致死率が高い“殺人感染症”はこんなにある。
西日本に住む60代の主婦Aさんは今年4月上旬に突然、発熱と意識障害を起こして入院。原因不明のまま約1週間後に死亡した。
Aさんの家族が「山に入った際、ダニに噛まれたようだ」と証言していたことから、医療機関が国立感染症研究所(感染研)にAさんの血液を送り調べたところ、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)に罹患していたことが判明。
11年に中国で初めて原因ウイルスが特定されたSFTSは、今年1月以降日本でも19症例が報告され、大騒ぎとなった。いずれも国内での感染とされている。
感染研・感染病理部の長谷川秀樹部長によれば致死率は「統計によってさまざまだが10~30%程度」と見られるが、19症例のうち9名が死亡(5月29日現在)していることから考えると、単純計算では50%以上となる。
症状としては、病名の通り血小板が減少し、出血しやすくなる。発熱以外にも嘔吐など消化器障害を起こし、Aさんのような意識障害や痙攣を伴うこともあり、最悪の場合は死に至る。
「原因となるマダニは日本全国の野山に生息しており、これまでも噛まれて死亡した人はいたはず。最近になってSFTSウイルスの存在が確認されたにすぎない」(長谷川氏)
ダニが引き起こす感染症に詳しい橋本喜夫・旭川厚生病院皮膚科主任部長はその怖さを指摘する。
「SFTSウイルスを保有するマダニのうち、西日本に多く生息するフタトゲチマダニの体長は成虫で3mm程度。それが吸血後は5倍の1.5cmまで大きくなる。怖いのは、噛まれている間に痛みを伴わないこと。自覚のないままウイルスに感染し、しかも、効く薬は今のところない」
ただし、「SFTSウイルスを持っている有毒マダニの比率は、他のマダニ感染症から類推して全個体の10%以下と考えられ、噛まれたら必ず感染するわけではない」(橋本氏)という。
※SAPIO2013年7月号