一向に減らない万引きに、万引き犯の顔写真を店先に貼り出すという強硬手段に出た大阪の鮮魚店。ぐっとカメラをにらむ初老の男性や野球帽を被った硬い表情の中年男性など計8枚の写真がレジ背面や店外の壁に貼られている。
罰金1万円を支払わなければ顔写真が公開されるのだ。インターネット上では賛否両論が渦巻き、議論は白熱するばかり。なぜ人は万引きするのかという視点も必要だ。万引き常習犯の治療を行う赤城高原ホスピタルの竹村道夫院長は、「万引きする人には常習者が多い」と指摘する。
「逮捕されても何度も万引きを繰り返し、執行猶予中の万引き犯のうち4割が再犯するとのデータもあるほどです。万引き常習者の中には病的レベルの人も結構います。『窃盗癖(クレプトマニア)』と呼びますが、こうした病的な人たちは、罰則では再犯防止ができません。医療的対応が必要です」
こうした万引き犯を“さらし者”にすることは大変危険だと竹村院長は警告する。
「窃盗癖患者の中には情緒不安定なかたが多い。実際、万引きが見つかった後に会社や家族などに知られることを恐れ、自殺や自傷行為にいたる人も多いのです。今回のケースでも、一方的な処罰で追い込まれた人が自殺をしたら、店主はその責任を取れるでしょうか」(竹村院長)
芥川賞作家で福聚寺住職の玄侑宗久さんも万引き犯への影響を心配するひとりだ。
「万引き行為は確かに許されませんが、この国の人々はあまりの“辱め”を受けると、忠臣蔵のように“雪辱”を果たす民族でもあります。私が恐れるのは、写真を貼り出された人々の意趣返しです」
つまり、忠臣蔵で君主を辱め、自死に追い込んだ吉良上野介に赤穂浪士たちが復讐を果たしたように、精神的屈辱を与えられた万引き犯が逆恨みし、店側に何らかの危害を加える恐れがあるというのだ。
※女性セブン2013年6月27日号