2002年以降、グランドハイアット、マンダリンオリエンタル、ペニンシュラ東京、リッツカールトンといった外資系有名ホテルチェーンが次々と都内にオープンし、東京は瞬く間に国際的なホテル激戦地となった。さらに、リーズナブルな価格でシティホテル並みのサービスを売りにしたビジネスホテルの登場が追い打ちをかけ、本家の“シティホテル”は窮地に立たされる。品川駅前のシンボルであったホテルパシフィック東京も、かつては「彼氏とお泊まりしたいホテルNo.1」といわれた“赤プリ”(赤坂プリンスホテル)も、この戦いを勝ち抜くことはできなかった。
シティホテルはこれまで、“ビジネスホテル以上高級ホテル未満”という独自のクラス感で“庶民のプチ贅沢”として長年にわたり受け入れられてきた。ところがビジネスホテルやラブホテルが画期的なプランやサービスを掲げ、ぐいぐいと市場に食い込んできているいま、シティホテルの“なんとなくオシャレ”という曖昧な存在感では、もう利用客を集めることは難しくなってしまった。
このムーブメントを察知し、利用客のニーズに沿ったリノベーションを行なったことで危機を脱したホテルもある。
例えば、バスルームから東京の夜景を堪能できるコンセプトルームを新たに45室備えた三井ガーデンホテル銀座プレミア(東京都中央区)や、“不況知らず”のイメージがあるディズニーホテルの一つ、ディズニーアンバサダーホテル(千葉県浦安市)も、人気のキャラクターをモチーフとした客室を増やし、今年2月にリニューアルオープンしたばかりだ。
なかでも今年、大胆なリノベーションで話題となっているのが「ホテルインターコンチネンタル東京ベイ」(東京都港区/JR浜松町駅)。このホテルはこの度のリノベーションにあたり、なんと経営者ごとリニューアルするという荒療治を行なった。ホテルの名称こそそのままだが、中身は全く別のホテルに生まれ変わったといって良いだろう。
新生ホテルインターコンチネンタル東京ベイを指揮するのは、日本のブライダル市場にゲストハウスウェディングという新市場を開拓し“ミスターブライダル”の異名をもつベストブライダル代表取締役社長・塚田正由記氏だ。たしかにホテル事業とブライダル事業は切っても切り離せない間柄にあるため、ホテル事業に携わった人間がブライダル事業に参入するのは自然なことに思える。
しかし、今回の事例はその逆だ。しかも、いま人気のブライダルスタイルは新郎新婦やゲストの嗜好に合わせたゲストハウスウェディングやレストランウェディングといったカジュアルなタイプのもの。そつはないが形式ばったホテルでの挙式・披露宴の人気も下降気味だ。塚田氏はどのような勝算を描き、同ホテルを引き受けたのだろうか。
「いくらゲストハウスウェディングが人気といっても、ブライダル市場において、ホテルウェディングのシェアは40%を占めています。コンサバなホテルには安定した需要があるわけです。
ならば、ホテルブライダルにベストブライダルで培った総合プロデュースを盛り込み、世の中の誰もがやっていないこと、出来ていないことをやってみようと考え、まずはホテルのブライダル部門のお手伝いをお引き受けしました」(塚田氏)
塚田氏の思惑通り、ホテルウェディングにゲストハウスウェディングの要素を取り入れるという新しいスタイルはすぐに話題となり、塚田氏が経営に参加した2011年の翌年には同ホテルの婚礼は倍増。さらに、スイートルームを家族挙式場として改装し、その利用者も順調に増えている。既に、昨年度の婚礼数は、目標である年間約1000件を達成しているという。
ブライダル部門を再建した塚田氏のもとに、ホテル本体の経営・運営を任せたいという話が舞い込んできた。塚田氏は悩む一方で、ゲストハウスウェディングの現場で長年培ってきた細やかなサービスのノウハウをそのままホテルに当てはめることはできないだろうか、と今回のリニューアルの根幹となるコンセプトを構想し始める。
「ホテルを利用してくださる全ての方に“あなたのためにこのサービスを用意しました”と感じてもらうのです。そのためにはあらゆるニーズを先回りしてホテルのサービスに反映しなければいけませんし、莫大な金額の投資も必要です。何より人材の教育も一から改善です。しかし、それができれば必ず成功する。そう確信しました」(塚田氏)
今回のリニューアルで、それが形になったというわけだ。昨年末にロビーフロア、ラウンジ&バー、レストランがリニューアルオープン。続いて今年4月に「クラブ インターコンチネンタル フロア」、「クラブ エグゼクティブ インターコンチネンタル フロア」がグランドオープンした。
全てのリニューアルに、塚田氏の妥協なきこだわりが詰まっている。連日深夜にまで及ぶ会議、抜き打ちで繰り返されるチェックと改善。新しくなった全ての事柄の背景にあるのは、塚田氏が抱く顧客の満足への思いだ。
「提供するレストランのメニューのすべてを塚田自ら食してチェックし、ベッドやインテリアは自ら世界中を飛び回って特別仕様の交渉を行ないます。先日はザ・パティセリーで扱う人気のマンゴーケーキを一口試食した際、わずかに加えたアーモンドパウダーに気付き即座にNGを出し、すべて作り直しました」と同社営業本部長前原氏は苦笑するが、こんな話が日常にあふれているそうだ。
利用者がこれまで経験したことのない感動をプロデュースするため、今回のリニューアルでは、顧客の快適な空間を作るために改装中のレストランの工事途中に、塚田氏自ら幾度も現場で変更を加えたという。
また、ベッドメーカーのシーリー社と開発したオリジナルベッドも、自らが寝てみて最高の寝心地が得られるまで幾度となく試作を繰り返した。自らが体感して納得するまで味と空間デザインを追求する。その柔和な笑顔からは想像できないほど、仕事への執念は凄まじい。
僭越ながら、記者は、塚田氏のプロデュースを垣間見るために最上階24階のクラブ インターコンチネンタル フロアに体験宿泊した。
クラブフロアのチェックインは、20階のラウンジで行なう。名前を告げるとラウンジのおしゃれなソファに通され、スパークリングワイン、生ビールなど数々のアルコールをはじめ、ソフトドリンク、ライトミールでのもてなし。東京湾の眺望に心奪われ始めるころに手続きが完了するシステムだ。
先端を行くアーティストの作品をちりばめた美術館のような空間デザインとブライダル企業が練り上げたホスピタリティには目を見張るものがあったが、「おや」と感じた点がもう一つ。ホテルマンの笑顔がしっかり根付いている。
ラウンジで案内をしてくれた入社4年目だという女性社員に“社長が連日遅くまでいて大変ですね”と意地悪な質問を投げかけてみた。すると「ホテルのあり方や目標が私たちにもシェアされていますのでやりがいがあり、何より社長の指導で自ら成長している実感があります」とにっこり。
前出の前原氏は、「ホテルが新しくなってお客様の満足度が向上したために、お客様の笑顔も多くなりました。お客様の笑顔に支えられて社員の自主的な努力以上に、いつも笑顔で働くことのできるホテルへと労働環境そのものが変ったのです」と語る。ホテルのリノベーションは働く社員にまでよい形で効果が出ているようだ。
ちなみに、今回利用した宿泊プランは高層階オープン記念のスペシャルプラン。クラブインターコンチネンタルフロア スーペリア リバービューをキャンペーン価格で利用できた。同フロアに宿泊すると専用ラウンジで、朝夕一流シェフの料理が21時まで食べ放題、飲み放題で、まるで一泊二食だ。取材スタッフ2人が専用ラウンジでおなかいっぱいになってこの料金だったので、かなりお得に感じた。
なお、6月18日よりリノベーション記念プランをホテルホームページで案内している。この機会にミスターブライダルが提供するこだわりのホテル空間・レストランの美味しい料理と笑顔のおもてなしを体験してみてはいかがだろうか。