サラリーマンの「クビ切り合法化」の動きが着々と進んでいる。アベノミクス政策の総本山・規制改革会議で経済界出身の委員たちが主張しているのが「限定正社員」なる新たな雇用制度の創設だ。
これは、派遣や有期の契約社員など「非正規労働者」と「正社員」の中間形態として、勤務地域や職種を限定して採用する「限定正社員」(ジョブ型正社員)をつくるというものだ。原則、正社員と同じ無期契約だが、正社員が「企業全体の業績の著しい悪化」などの4要件(※注)を満たさなければ解雇できないのに対して、限定正社員は企業の業績が良くても、その地域から工場や店舗を撤退したり、その職種が必要なくなった場合、企業の判断で解雇できるようにする。
実は、「限定正社員」の制度はすでにある。「年収100万円も仕方ない」と社長が宣言したユニクロは2007年に契約社員やパートの半数に当たる2500人を地域限定正社員に採用し、日本郵政は昨年10月から勤務地が支社エリア限定の「地域基幹職」を創設した。厚労省労働基準局は、「社員と個別の契約で、店舗を閉店した場合など、解雇ルールを定めることは現行法でも可能です」(労働条件政策課)と説明する。
なぜ、経済界はわざわざ国に制度化させたいのか。労働問題に詳しいジャーナリストの溝上憲文氏が指摘する。
「解雇規制の緩和は財界の悲願です。現行制度で企業が個々の社員と解雇ルールを定めた契約を結ぶことができるといっても、裁判などで覆える可能性が高い。だから国に限定正社員を制度化させ、“クビにしてもいい”というお墨付きが欲しいわけです。
大企業は現状では転勤を望まない中高年や女性の正社員を対象に、転勤のない限定正社員化を勧めている。社員は給料が下がるだけでクビになることはないと思っているが、国の限定正社員ルールづくりに乗じて、そうした正社員からの転換組のクビも切ってしまえるようにしたいと考えている企業も多い」
社員から限定社員になると給料が2~3割下がるのが一般的だ。従来と同じ職務でも遠隔地への転勤がないだけで給料ダウンというのは、企業の「限定正社員」導入の狙いが大幅な賃下げにあるのは明らかだ。
【※注】「人員整理の必要性」、「解雇回避努力義務の履行」、「被解雇者選定の合理性」、「手続きの合理性」の4つ。1979年の東京高裁判例で示された。
※週刊ポスト2013年6月28日号