スポーツ

黄金時代西武の名スコアラー 原辰徳攻略法完全把握していた

 スポーツライターの永谷脩氏が往年のプロ野球名選手のエピソードを紹介するこのコーナー。今回は、選手を気持ちよくプレーさせる裏方のスペシャリストのエピソードを紹介する。

 * * *
 黄金時代のチームには優秀な選手だけでなく、陰で支える裏方のプロがいるものだ。広岡達朗、森祇晶両監督時代の西武には、前田康介、植上健治、豊倉孝治という名スコアラーがいた。皆、少々酒癖は悪いが、一流の分析力で的確な指示を出すプロだった。そのうちの1人、植上が西武のマウイキャンプ中に客死したのは1995年のこと(心臓発作)。データ分析に行き詰まると酒を飲み、徹夜で仕上げる激務に心臓が追いつかなかった。

 植上は1973年、エースで4番として高松商(香川)を春夏連続で甲子園に導いた。阪神にドラフト2位で指名され、その後クラウンライター(現西武)に移籍するが一軍未勝利。引退後、「自分の腕では球団に役立てなかったから、今度はペンで役に立ちたい」とスコアラーに転身した。愛用していたのは赤・黒2色のボールペンだった。

 植上の分析は何度もチームを救う。特に1983年の巨人との日本シリーズ第7戦、マウンド上の東尾は、満塁で原辰徳を迎えた際、「内角にボール球になるシュートを放って体を起こさせれば、後はど真ん中でも空振りする」という植上の言葉を信じ、その通りの投球で三振に仕留め日本一をたぐり寄せている。

 その植上の死──当時、監督1年目だった東尾は、せめて手厚く葬りたいと必死に駆け回った。マウイ島に1つだけあった浄土真宗の寺に頼み込み、ツテを頼って東本願寺の僧侶に来てもらった。ともかく寂しい形にはしたくないと、選手や、取材陣を含めた関係者が全員参列。腕章や喪章の用意が無いため、ホテルマンの黒のズボンを切って作ることにした。喪章作りには渡辺や潮崎哲也も参加、午後9時からの通夜に間に合わせようとしたのを覚えている。

 東尾は監督として初優勝を果たした1997年、相手のヤクルトのID野球に対抗して「情報が多くなりすぎると無駄になる」と、慣例である日本シリーズ前の先乗りスコアラーの“偵察”をやめようとした。しかし、それを思い止まったのはかつての植上の言葉を思い出したからだった。

「スコアラーにとって、日本シリーズ前の偵察は一番晴れがましい舞台です。頑張った証として、2球団しかできないこと。あれだけは続けて下さいね」

 脚光を浴びることは少ないが、仕事に誇りを持つ裏方だからこその言葉だった。

※週刊ポスト2013年6月28日号

関連記事

トピックス

広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
《事故前にも奇行》広末涼子容疑者、同乗した“自称マネージャー”が運転しなかった謎…奈良からおよそ約450キロの道のり「撮影の帰り道だった可能性」
NEWSポストセブン
筑波大の入学式に臨まれる悠仁さま(時事通信フォト)
【筑波大入学の悠仁さま】通学ルートの高速道路下に「八潮市道路陥没」下水道管が通っていた 専門家の見解は
NEWSポストセブン
広末は再婚へと向かうのか
「これからもずっと応援していく」逮捕された広末涼子の叔父が明かす本当の素顔、近隣住人が目撃したシンママ子育て奮闘姿
坂本勇人(左)を阿部慎之助監督は今後どう起用していくのか
《年俸5億円の代打要員・守備固めはいらない…》巨人・坂本勇人「不調の原因」はどこにあるのか 阿部監督に迫られる「坂本を使わない」の決断
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者(44)が現行犯逮捕された
「『キャー!!』って尋常じゃない声が断続的に続いて…」事故直前、サービスエリアに響いた謎の奇声 “不思議な行動”が次々と発覚、薬物検査も実施へ 【広末涼子逮捕】
NEWSポストセブン
「居酒屋で女将をしている。来てください」と明かした尾野真千子
居酒屋勤務を告白の尾野真千子、「女優」と「女将」の“二足のわらじ” 実際に店を訪れた人が語る“働きぶり”、常連客とお酒を飲むことも
週刊ポスト
再再婚が噂される鳥羽氏(右)
《芸能活動自粛の広末涼子》鳥羽周作シェフが水面下で進めていた「新たな生活」 1月に運営会社の代表取締役に復帰も…事故に無言つらぬく現在
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
《病院の中をウロウロ…挙動不審》広末涼子容疑者、逮捕前に「薬コンプリート!」「あーー逃げたい」など体調不良を吐露していた苦悩…看護師の左足を蹴る
NEWSポストセブン
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン