年間30万人以上ががんで命を落とす時代──病への恐れが先行することで、治療費に関しても誤ったイメージが流布している。
アメリカンファミリー生命保険会社が2011年5月に行なった「がんに関する意識調査」。がん治療に関わる費用(入院、手術、薬代など)はどの程度かかると思いますか──との質問に対してがん経験のない1万1528人が回答。得られた回答を、がん経験のある593人の、実際かかった額と比較している。
がん未経験の回答者の半数以上が「300万円以上もしくは300万円程度」と答えた。一方、がん経験のある回答者の多くは「50万~200万円程度」と答えたのだった。
この認識の差はなぜ生まれるのか。『がん保険のカラクリ』(文春新書)の著者でライフネット生命保険副社長の岩瀬大輔氏がいう。
「皆さん、公的な医療保険制度に関する知識が足りないんです。公的な保険によってどこまでカバーされて、どこから自己負担になるのか。その上で民間の保険をどの程度活用できるのか。そうした知識をもてば、もっと落ち着いてがんと向き合うことができるはずです」
日本の代表的な公的制度が健康保険の「医療費3割負担」である。がん治療において100万円を超える外科手術は珍しくないが、自己負担は3割の30万円ですむ(ただし、保険適用になっていない先進医療は除く)。
その30万円ですら全額自己負担になるとは限らない。ここで知っておきたいのが「高額療養費制度」だ。
1か月に支払った医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、超えた金額が支給される制度である。一般所得の対象者(月収53万円未満で住民税非課税者を除く)で70歳未満の場合、1か月の自己負担が8万100円を上回ると適用される。
さらに過去1年のうちに3回以上同制度が適用されれば、4回目からはさらに自己負担額が下がる。この場合、70歳未満の一般所得者のケースでは、自己負担の上限は月4万4400円となる。
従来は高額療養費の支給申請をしても、医療費が手元に戻るのは最短でも3か月必要だったが、昨年4月から治療前に事前申請すれば窓口支払いも上限額で収められるようになった。
さきほどの100万円の例でいえば、自己負担30万円のうち、同制度を申請すると支払うのは約9万円(※注)に収まるのである。
【※注】正確な1か月あたりの自己負担額は「8万100円+(医療費-26万7000円)×1%」にて算出される。
※週刊ポスト2013年6月28日号