作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏によるドラマ時評。今回俎上にあげたのは、近年のドラマでは非常に珍しい「右肩上がり」を記録し続けるあの作品である。
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木曜夜10時、篠原涼子主演のドラマ「ラスト・シンデレラ」(フジテレビ系)。彼氏いない歴10年、仕事に生きる39歳「おやじ化した女子」が、二人のイケメン男の間で心を揺らす、ちょっと切ないラブコメディ。
このドラマ、7週間続けて視聴率がアップし「民放の連続ドラマでは初の快挙」と話題を振りまいています。今どき右肩上がりで着実に数字が伸びるなんて珍しい。それだけ「広い共感を得ている」証でしょう。
そしていよいよ6月20日木曜日が最終回。ラストに向かって盛り上がるか、と期待したわりに……先週の第10話の内容は、ご都合主義的な残念な展開でした。
突然、チンピラがヒロイン・桜にからんでくる。そこへ、身をなげうって助けに入った凛太郎(藤木直人)。桜の心は凛太郎へ傾く。ところが、凛太郎にNYへの転勤命令が。彼の背中を追いかけNYへ行くのか、それとも15歳年下の元恋人・広斗(三浦春馬)を選ぶのか。究極の選択を迫られる桜……ねっ。既視感ありありの、古色蒼然としたエピソード集にびっくり。それでも、最終回まで見届けよう、と気持ちが揺るがないから不思議です。
このドラマ、なぜ視聴者を惹きつけるのか。熱い人気を集めているのか。考えてみると……。
広斗を演じる三浦春馬の新鮮な魅力もたしかにありました。が、やはり全編を支えているのは、篠原涼子の「ズバぬけた芝居勘」ではないでしょうか。
桜は、仕事しすぎでオス化し髭が生えてくるような「おやじ女子」。淡泊で切れ味のある性格、べらんめえ調の弾丸おやじトーク。おやじセリフがすごい速度で泉のように湧き出てくる篠原涼子。役になりきる憑依力には脱帽です。
現実の世の中を見回すと……桜のように仕事をバリバリこなす女子はたくさんいる。彼女たちは、ある武器を身につけている。それは、ドライな性格です。桜のような、サバサバ感です。仕事で次々に案件をこなし物事を着実に進め、トラブルが生じても冷静に対処し、人間関係もぐじゅぐじゅしない。そんな風に、感情をコントロールする術。
本気で仕事をするには、その術が無ければうまくいかない。だからあえて、自分をドライモードに切り替える。しばし「女子」を封印して。働く女性たちの多くは、そんな操作術を身につけ武器にしつつ、今日もバリバリ戦っているのではないでしょうか?
でも、それだけでは終わらせたくない。時に、甘い夢を見たり感情のままに叫んだり、心臓がドキドキするような純な自分でいたい。と、引き裂かれ続けている。
「ラスト・シンデレラ」のヒロイン・桜は男的であり女的。サバサバしていて、かつ、グジュっ。そんな「両性具有性」の中で格闘しています。多くの女たちが、主人公・桜の中に自分自身の姿を見つけた--このドラマが熱い支持を集めた理由がそのあたりにありそうです。
ドラマを見ていてふと、気付いたこと。
ヒロイン・桜の人物像って、すでに篠原涼子自身が何年も前から先取りしていたのでは?
「ヤバイ、ぐっときた」
オリックスVIPローンの、あのCMシリーズで。
バリバリ仕事をこなすカッコいいOL。ところが。さりげない優しさを不意に上司に見せられて、ぐっときてしまう。キャリアウーマンの中に、カワイイ女が覗く瞬間を描いたあのCMです。デキル人とカワイイ人、両極をやらせたら篠原さん以上に上手い役者はいないはず。
ついでに、「ラスト・シンデレラ」の篠原涼子に「ヤバイ、ぐっときた」という隠れファンを発見しました。それは、「おやじ女子」にいたく共感を重ねる中高年のおやじたち。これはフジテレビにとって予想外の収穫と言っていいでしょう。