芸能

絶好調の「あまちゃん」に欠落しているもの 女性作家が指摘

 世の中、「あまちゃん」ブームである。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏も熱心な視聴者のひとり。山下氏は作品の出来栄えを高く評価した上で、あえて注文をつける。

 * * *
 NHK朝ドラ『あまちゃん』の視聴率が関東地区で22.2%と、スタート以来最高を記録しました。ツイッター上では一般人のみならず、多くの著名人が『あまちゃん』にコメント。「大震災をどう描くか」という予想までが語られ始めています。

 漫画家は続々とあまちゃんイラストをアップし、ロケ地には観光客が押し寄せる。あちこちに波及しているその人気、ちょっと過熱気味かもしれません。

 スタートから3か月、物語は折り返し地点へ。親子の葛藤に焦点が当たり、一つの山場を迎えています。東京へ行ってアイドルになりたいアキ(能年玲奈)と、反対する母・春子(小泉今日子)。激しくぶつかりあう二人。

 やりとりを見ているうちに、春子の役柄を超えて、そこに「キョンキョン」という実在のアイドルが二重写しになる……。クドカン脚本の妙味、と言えるのではないでしょうか。

 そのアイドル話に、オタ芸、サブカルを組み合わせるなど笑わせる小ネタは充実しています。でも私はあえてそこに無いモノを期待したいのです。

 東北の町をどう描こうとしているの? 久慈の町並みはどう描かれているの?

 長いスカートをずるっと履き、「このブス、バカ」と娘にむかって罵倒する春子。それは昔ヤンキーだった痕跡。ではもし田舎町でヤンキーをしていたら? 必ずや隣近所から浮く。地域の人との摩擦やあつれきもあったに違いない。春子という不良にまつわるいくつもの出来事、数少ない理解者との心の響きあいもあったのでは……でも、昔の春子と地域社会との関係が、よく見えてこないのです。

 一言でいえば、「地元」が空間の広がりとして掴めない。ドラマにご町内が描かれることは少なくて、天野家内やスナック内という「小空間」での言い争いに終始してしまうのはなぜか。

 スナックとアキの自宅はどれくらい離れてる? スナックの周囲に他の店はないの? 商店街はどうなっている? パチンコ屋だけなぜ混雑?

「海」「駅」「スナック」という点は見えても、町が面として見えないから空間として地図に描けないのです。町のジオラマは映っても、視聴者が町を知り疑似体験したり共有する場面になかなか出会えない。そのあたりちょっと残念です。

 例えば、朝ドラの金字塔を打ち立てた『カ-ネーション』を振り返ってみましょう。舞台である大阪・岸和田の商店街には、多種多様な職業に就く人たちがいて、それぞれが仕事と暮らしの中で泣き、笑い、主人公と絡みあいながら、時代の中で格闘していました。視聴者はその岸和田の町の空間を一緒に共有し、町の地図を頭の中に描きながらドラマを楽しんでいました。

 クドカン脚本に「小ネタで笑わせようとする意識」をどうしても感じてしまうのは、ドラマの舞台が空間として立ち上がってこないことと、どこか関係しているかもしれません。笑わせる小ネタもいいけれど、小ネタの次は、地域社会という大きな空間にも迫ってほしい。その両方を振幅してもらえれば、このドラマは一層、共感を集めるのではないでしょうか?

 もちろん、「こうでなければいけない」ということはないのです。でも『あまちゃん』への期待は、東北の町がいったいどんな風景だったのか理解したいという視聴者の思いとも重なっている。様々な期待や要求が飛んでくるのは、NHKで半年間放映される公共性の高い朝ドラの宿命でもあります。

 これからいよいよ後半。大震災という過酷な試練を通して、東北の町への愛がドラマの中でどんな風に描かれるのか。あるいは舞台が東京へと移った時、私の故郷・東京の町がどのように描かれるのか。期待して見続けたいと思います。

関連記事

トピックス

日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
実業家の宮崎麗香
《セレブな5児の母・宮崎麗果が1.5億円脱税》「結婚記念日にフェラーリ納車」のインスタ投稿がこっそり削除…「ありのままを発信する責任がある」語っていた“SNSとの向き合い方”
NEWSポストセブン
出席予定だったイベントを次々とキャンセルしている米倉涼子(時事通信フォト)
《米倉涼子が“ガサ入れ”後の沈黙を破る》更新したファンクラブのインスタに“復帰”見込まれる「メッセージ」と「画像」
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン
峰竜太(73)(時事通信フォト)
《3か月で長寿番組レギュラー2本が終了》「寂しい」峰竜太、5億円豪邸支えた“恐妻の局回り”「オンエア確認、スタッフの胃袋つかむ差し入れ…」と関係者明かす
NEWSポストセブン
2025年11月には初めての外国公式訪問でラオスに足を運ばれた(JMPA)
《2026年大予測》国内外から高まる「愛子天皇待望論」、女系天皇反対派の急先鋒だった高市首相も実現に向けて「含み」
女性セブン
夫によるサイバーストーキング行為に支配されていた生活を送っていたミカ・ミラーさん(遺族による追悼サイトより)
〈30歳の妻の何も着ていない写真をバラ撒き…〉46歳牧師が「妻へのストーキング行為」で立件 逃げ場のない監視生活の絶望、夫は起訴され裁判へ【米サウスカロライナ】
NEWSポストセブン
シーズンオフを家族で過ごしている大谷翔平(左・時事通信フォト)
《お揃いのグラサンコーデ》大谷翔平と真美子さんがハワイで“ペアルックファミリーデート”、目撃者がSNS投稿「コーヒーを買ってたら…」
NEWSポストセブン
愛子さまのドレスアップ姿が話題に(共同通信社)
《天皇家のクリスマスコーデ》愛子さまがバレエ鑑賞で“圧巻のドレスアップ姿”披露、赤色のリンクコーデに表れた「ご家族のあたたかな絆」
NEWSポストセブン
硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将(写真/AFLO)
《戦後80年特別企画》軍事・歴史のプロ16人が評価した旧日本軍「最高の軍人」ランキング 1位に選出されたのは硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将
週刊ポスト