6月15日は中国の最高指導者、習近平国家主席の誕生日。その60歳の誕生日に祝電を送ったのが北朝鮮の最高指導者である金正恩・第一書記だが、金氏は今年3月、北京で開かれた全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で国家主席に就任した習氏に祝電を送らなかった中国の友好国では唯一の最高指導者だった。それがなぜ、いまになって習氏の誕生日に祝電を送ったのか。
金氏の祝電は「習近平主席の誕生日おめでとうございます。朝中の伝統的友誼を世世代代さらに確固として発展させることは朝鮮労働党と全国人民の揺るがない願いである。朝中の友誼は長遠にして戦略的意義を備えており、長い歴史と複雑な国際環境を乗り越えてきた」などというもの。
中朝のこれまでの友好関係を賛美したもので、少し大げさな感じはするが、祝電としてはごくごく普通の内容だ。しかし、そのような習氏の誕生日と中朝関係の伝統的な友誼を称賛する電報の送り主が金氏であるとなると、話は違ってくる。
というのは、金氏は昨年11月に習氏が中国共産党の序列ナンバー1の党総書記に選出されたときも、今年3月の国家主席に就任したときも、習氏に祝電を打たなかったからだ。
今年3月の国家主席就任の時は、沖縄県の尖閣諸島問題で関係が悪化していた日本の安倍晋三首相でさえ、儀礼上祝電を送ったのに、「伝統的な友誼」を誇る同盟国ともいえる北朝鮮の金氏が祝電を送らなかったのは外交上、非礼以外の何ものでもない。
中国では習氏が最高指導者に就任して以来、中国の意向を無視して、核実験やミサイル発射実験を行なってきた北朝鮮の動きを強く批判する論調が強まっており、習氏も党の内部会議で、「中国の核心的利益である経済的発展の道を脅かすものであり、自分の利益だけを考えて、他人の利益を顧みない行為」などと強く非難していた。
それは当然、金氏の耳にも入っており、まだ30歳そこそこで鼻っ柱の強い金氏の反発を買うのは当然で、「金氏も習氏を目の敵にしていた」という北京の共産党筋は明かす。
それが習氏の誕生日に祝電を送ったのにはこの3か月間で大きな変化があったのだろうか。考えられるのは中国からの経済的支援が激減したことで、北朝鮮の財源が枯渇しつつあるということだ。
北朝鮮は中国がダメならば、韓国がある。韓国がダメならば、日本があるとばかり、日本から飯島勲内閣官房参与の訪朝を許可したが、拉致問題がネックで、経済援助を引き出せる段階ではない。韓国とも交渉再開にこぎ着けたものの、直前になってキャンセル。中国同様、伝統的な友好国のロシアも態度は素っ気ないとあって、「頼りになるのは、やはり中国だ、ということがようやく金氏にも分かったということではないか」と同筋は語る。
19日から中朝戦略対話が始まり、ようやく中朝関係が改善への軌道に乗り始めたところだけに、金氏も「習主席のご機嫌を取っておこうと考えても不思議ではない」と同筋は指摘する。
中国のネット上では「下心見え見え。援助しても、どうせ金ファミリーの酒代に消えるだけ。中国の資金を一銭たりとも援助してはダメだ」との書き込みが見られている。