安倍首相のフェイスブック発言が波紋を広げている。
「彼に外交を語る資格はありません」──彼とは毎日新聞のインタビューで「安倍政権の右傾化」への懸念を示した田中均・元外務省アジア大洋州局長のこと。安倍首相は11年前、北朝鮮との拉致外交に携わった際、田中氏と意見対立があったことを6月12日のフェイスブックで明かし、批判を加えた。
安倍氏のこの発言について、民主党の細野豪志幹事長は「田中氏は一民間人。表現の自由を有している」。党内からも小泉進次郎青年局長の「個人の名前を挙げて反論、批判をすべきではない」など非難が相次いだ。特に小泉青年局長は、安倍首相の最近の言行について、「首相が何をやっても批判されるのは宿命だ。そこは受け流し、時には受け止めるべきだ」と手厳しい。
政治評論家の有馬晴海氏がいう。
「安倍首相は気づいていないと思いますが、田中氏への批判はもはや個人への人格攻撃──“ヘイトスピーチ”の域に達しているといっていい。アベノミクスへの焦りからか、参院選前にもかかわらず高い支持率を誇っているからなのか。安倍氏はこの頃、全体的に勢いづいた発言が多い。
村山談話や憲法96条に関する発言も、その調子のまま口にしてしまっているから問題になる。特にフェイスブックやツイッターは側近や秘書のフィルターを通さず、そのまま発信できるから、過激な言説につながりやすいんです」
遡る6月9日に東京・渋谷で行なわれた安倍首相の街頭演説。演説終了後、自らのフェイスブックに「演説を左翼に妨害された」と書き込んだものの、それを後に削除するという騒動もあった。
安倍演説に野次を飛ばしていたのは同時刻に近くで街宣をしていた反TPP(環太平洋経済連携協定)を訴える運動団体だった。
団体の一人は、「反TPP=左翼と括られたけど、私は根っからの保守派ですよ。安倍さんは自分に反対する者は全部『左翼』呼ばわりなんでしょうか」と語る。
※週刊ポスト2013年7月5日号