前線の兵士一人ひとりが身にまとい、使う身近な装備──兵装にこそ自衛隊が抱える矛盾が象徴的に噴出している。軍事ジャーナリストの清谷信一氏が解説する。
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兵士がそれぞれ勝手な服を着ているとどこの国の兵士かわからないし、日本も調印したハーグ陸戦条約(1899)は同じ国の兵士は同じ服を着用すべきことを定めている。だから、任務に必要な被服は軍から支給されるのがどこの国でも当たり前だ。しかし、陸上自衛隊北部方面隊のある隊員は次のように話す。
「被服は満足に支給されません。厳寒の北海道の部隊にコットンの靴下が支給されますが、汗をかくと冷えたり凍ったりするので使い物になりません。そのため、冬場はフリースを自腹で買います」
だが、それでは有事の際に危険だ。燃えると溶けて肌に密着してしまうからだ。そうなると皮膚呼吸ができなくなるし、やけどの治療が困難になる。先進国の軍隊では、下着や戦闘服には難燃素材を使用し、フリースは燃えるとボロボロと崩れる軍用の素材を使用したものが支給される。
自衛隊では一部を除いてセーターも支給されず、自腹で買う。
「東日本大震災のとき、ボディバッグ(遺体袋)も担架も不足していたため、直接遺体を背負って運んだケースが少なくありませんでした」(陸自隊員)
長期間現場に派遣された隊員たちは、死臭の染みついた自前のセーターを取り替えられなかった。
※SAPIO2013年7月号